ドラマチックな街、ワシントンD.C.
ワシントンD.C.は、おそらく世界で最もドラマチックな街です。これまでに数多くの映画、ドラマの舞台として描かれていますから、多くの方がイメージしやすい街ではないでしょうか。
アメリカの東海岸、バージニア州とメリーランド州の間にある159平方kmのワシントンD.C.は、アメリカ合衆国の首都であり、いずれの州にも属さない、政府直轄のコロンビア特別区(Distict of Columbia)です。東京の山手通り(環状6号線)の内側の面積よりも少し小さい面積にあたり、約70万人の人びとが住んでいます。近接するバージニア、ウェストバージニア、メリーランド、各州の都市を含めた「首都圏(メトロポリタンエリア)」としての人口は、約560万人にのぼります。
映画やドラマでは華やかなイメージで描かれることもありますが、事実はフィクションの世界で描かれたものよりも、陰惨です。この街では、近現代史に深く刻まれた数え切れない重大な出来事が生じてきました。1963年の公民権運動、1973年のウォーターゲート事件、2001年の国防省などへの同時多発テロ事件、そして、最近ではトランプ元大統領支持者らによる暴動。これらの出来事の中心にあるのが、ホワイトハウス(大統領府)です。これは、おそらく地球上のほとんどの人がニュースなどで観たことがある建物であり、ワシントンD.C.を訪れた人びとが、スミソニアン博物館などとともに必ず立ち寄る観光名所でもあります。多くの映画のなかでホワイトハウスは、テロの攻撃対象となり破滅的なダメージを受けています。実際にも米英戦争のさなかホワイトハウスは破壊されたことがありました。映像のなかとはいえ、現代の国家元首の官邸が、これほど頻繁に破壊されるところは他にはないでしょう。このようにフィクションの世界でも有名なホワイトハウスは、誰にでも認知される存在になっています。
都市計画に基づく新しい首都
ワシントンD.C.は、壮大な都市計画のもとにつくられた新しい首都です。建国したばかりのまだ政情的に不安定だった18世紀末のアメリカに新しい首都を建設する計画が立ち上がりました。紆余曲折がありつつも、ポトマック川を挟んだバージニア州とメリーランド州の「100平方マイル」の4角形の土地を連邦政府が割譲を受け、ここを両州に属さない連邦政府の直轄地とする「コロンビア特別区(District of Columbia)」を制定し、1800年にここに遷都しました。その後、バージニア州側の土地は返却され現在の区画となります。
この新しい首都は、フランス人のピエール・ランファンが作成した都市計画案を基礎にし、その後幾度かの計画の改訂を経て建設されました。特徴的なのは、この都市計画の美しいレイアウトです。連邦議事堂から北西方向に伸びる放射線状のペンシルベニア・アベニュー(Pennslylvania avenue)の先にはホワイトハウスがあり、そこから西側のポトマック川沿いにあるリンカーン・メモリアルまで、整えられた緑地が広がっています。この緑地は「ナショナル・モール」と呼ばれ、ワシントン・モニュメント(記念塔)、ナショナル・ギャラリー、スミソニアン博物館群の自然史博物館、歴史技術博物館、航空宇宙博物館など有名な施設が立ち並んでいます。皆さんにとっても、これらはきっとテレビ、映画、雑誌等で見覚えのある建造物であろうと思います。また、ポトマック川岸には、1912年に日本から贈られたソメイヨシノが春になると美しい桜並木をつくりだし、訪れた人びとの目を楽しませています。
政治の街
ワシントンD.C.は、アメリカ合衆国の行政・立法・司法の諸機関が集中し、世界銀行、IMFなどの金融の国際機関も所在する、世界の中心的役割を担う都市です。全世界170か国以上の大使館、また、著名なシンクタンクや様々な業界団体のオフィスなど、世界の中枢機関が集まっています。
キャピトル・ヒルにある連邦議事堂(Capitol Hill)の周りには議会図書館、最高裁判所、上院・下院議員会館、そして、連邦議事堂とホワイトハウスを結ぶペンシルベニア・アベニュー沿いには国立公文書館、司法省、FBI(連邦検察局)、国税局などが立ち並んでいます。世界銀行、IMFなどの国際機関は、ホワイトハウス西側のペンシルベニア・アベニューに位置します。各国の大使館は、大使館街(Embassy row)と呼ばれる高級住宅街に集まっており、北西部のマサチューセッツ・アベニュー (Massachusetts Avenue)に沿って、デュポン(Dupont)サークルを中心に、スコット(Scott)サークル、シェリダン(Sheridan)サークルまでのエリアです。デュポンサークル周辺にはブルッキングス研究所、ケイトー研究所、アメリカンエンタープラズ研究所など、また、北東側にはヘリテージ財団など、の著名なシンクタンクがあります。
このように、ワシントンD.C.にはアメリカ国内の代表者だけでなく、世界各国の代表者が集まっているため、ここで声を上げることは大きなインパクトをもたらします。特に、公民権運動を力強くリードしたキング牧師の1963年の演説は、アメリカ社会だけではなく世界の国々に多大な影響を与えました。「I have a dream. 」という有名な一節を含むこの演説において、すべての人々に自由と民主主義を求め、人種による差別の無い社会の実現を訴えました。これが、連邦議会に「1964年公民権法」の制定を強力に促したと言えると思います。
D.C.のスタートアップ
ワシントンD.C.近郊には、ジョージタウン大学、ジョージ・ワシントン大学、アメリカン大学、ハワード大学など国際政治、政策科学の分野で世界的に有名な大学や研究機関が存在しています。カリフォルニア、ニューヨーク、ボストンなどの大都市と比べると、この街の教育は「政治」に特化していると言えるでしょう。しかし、有力な大学が集まり、影響力の有る人びとが集う街です。他の大都市同様に、ここに有望なスタートアップが誕生してもおかしくはありません。
Optoro社
Optoro 社は、2010年に設立されたスタートアップ。アメリカで最も成長の速いスタートアップのひとつであり、さまざまな賞を受賞している評価の高い企業です。Optoro社は、顧客のリクエストによる販売した商品の返却に関して、企業が抱える問題を改善するサービスを提供しています。一般に、企業はカスタマー・エクスペリエンスの改善により顧客の自社ブランドに対するロイヤリティを高めることができると考えられています。つまり、消費者は期待と異なった商品であっても、それをスムーズに返却できれば、その会社に対する信頼を高めることができるのです。さらに、同社が提供するサービスは、商品返却の効率化とともにゴミの削減を達成することも目的としているため、Social goodなビジネスでもあります。
ClassEDU社
ClassEDU社は、Zoom上でグループでの教育を支援する、教育機関向けのアプリを提供しています。パンデミック下で多くの人たちはオンライン会議アプリを使用したことと思います。その中でもっとも評価が高いアプリの一つがZoomです。このClassEDU社は、2020年に創立された文字通りのスタートアップで、Zoomを教育現場のニーズに合わせるようなEdTechアプリ「Class for Zoom」を提供しています。このアプリは、出席確認、小テストの実施・採点、個別の指導など実際の教室と同等の状況を提供しています。同社を起業したのは、アメリカを中心に多くの国の教育機関で導入実績のある学習管理システム(LMS: Learning Management System)、Blackboardの共同開発者であるM. Chasen氏です。
D.C.のオフィス賃貸市場
パンデミックの影響で他の都市同様に、ワシントンD.C.の賃貸オフィス市場も減退しています。2021年にはいっても空室率は約18%と高水準のまま推移しています(JLL社[1]調べ)。アメリカ国内におけるワクチン接種が進んではいますが、いまのところ市場が回復する兆しはみえてきていません。連邦政府の移転を求める法案も提出されており、今後の市場動向に不透明感が漂っています。
Capitol Hill
キャピトル・ヒルの連邦議事堂を望むことができる、ペンシルベニア・アベニューに面したオフィスビルです。このビルは1990年に建設され、2015年にリノベーションされました。4階建て。各フロアーはおよそ14、000SFあります。賃料は、4階のSuite Aは3、866s.f.(約360㎡)であれば、一ヶ月あたり約10、322ドル(1s.f.当たり2.67ドル)となります。
【引用元】
[1] https://www.us.jll.com/content/dam/jll-com/documents/pdf/research/q2-2021-office-insights/jll-us-office-insight-q2-2021-washington-dc.pdf
出所:STANTON DEVELOPMENT CORPORATION
CBD
CBD(セントラルビジネスディストリクト)のKストリートにある11階建てのオフィスビルです。このビルは、1975年の建設で2018年にリノベーションされています。7階にある1689s.f.(約157㎡)の物件は、サブリースで、賃料は1ヶ月あたり5489ドル(1s.f.当たり3.25ドル)です。Kストリートには、シンクタンクや法律事務所などロビイストも多く集まっています。この物件は、情報収集のためのオフィスにはちょうど良いサイズであろうと思います。
出所:JLL社
Georgetown
ここはその名のとおり、名門ジョージタウン大学がある街です。ここはアカデミックな雰囲気のある、落ち着いた高級感のある街です。若い人たちが多いことから、おしゃれなカフェやレストランも立ち並んでいます。この物件は、2006年に建設された5階建てオフィスビルです。たとえば、1階のSuite 100は、7、100s.f.(約660㎡)の広さで、1ヶ月34、293ドルです(1s.f.当たり4.83ドル)。
出所:LINCOLN PROPERTY COMPANY
未来を作る自由と正義
映画やドラマなどのフィクションの世界では、テロ、陰謀、裏切り、足の引っ張り合い、など権力を巡ってありとあらゆる出来事が描かれています。しかし、これらは現実の世界でも起きており、ときには小説よりも奇妙な現実も起こります。
トランプ政権の誕生以来、私たちはそれまで持っていた価値観を大きく揺さぶられ、虚構と真実の境界を見出すことが困難になったように思います。トランプ前大統領は、SNSを巧みに使い、国民のみならず、世界の人びとに向け発言を繰り返し、自己にとって都合の良い方向に人びとを扇動していきました。国家間の交渉を「ディール」と呼び、獲得した「利益」を実績として誇らしく雄叫びを上げていました。しかし、都合の悪い報道があれば「フェイクニュース」とSNSでつぶやき、真実を覆い隠していきました。いったい真実はどこにあったのでしょうか。彼はネットを巧みに利用した大統領でした。
コロナ禍のWFH(Work From Home)により、人びとはこれまで以上にネット上のサービスを利用するようになり、SNSを介してニュースを見聞きする頻度も増しました。ネットのセキュリティ強化と、SNSなどの情報の信憑性の確保はより強く求められるようになりました。現時点では情報の真贋を明らかにするのは困難ですから、私たちが自分自身で、流れてくる情報を鵜呑みにせず、一つひとつ注意深く吟味することが求められます。少なくとも地球上で最も影響力のあるワシントンD.C.の政治家が情報を発信する際には、国外にもその影響力が及んでいる事実を忘れないで欲しいと思います。ホワイトハウスから発せられる情報には世界中が耳を傾けているのですから。
キング牧師は演説で、人びとに「Let freedom ring(自由の鐘を鳴り響かせよう)」、そして「an oasis of freedom and justice(自由と正義のオアシス)」へ向かおうと語りました。今日の、ネット社会では誰もが自由に声をあげることができますが、その反面、国境の無いネット社会で正義を実現するのは簡単ではありません。改革を求めた先人たちのように、諦めずに正義を求める声をあげ続けることが大切です。フェイクニュースをつぶやくのではなく、世界の中心に向け「正義」をつぶやきましょう。
記事作成者
井尻 直彦(Naohiko Ijiri)
日本大学経済学部教授,前経済学部長。専門は国際経済学。静岡英和学院大学を経て,2003年より日本大学経済学部に奉職。OECDコンサルタントなどを経験。日本大学経済学部卒業,英国Nottingham大学大学院修士課程(MSc)修了。2019年よりNPO法人貿易障壁研究所(RIIT)を立上げ,理事長・所長を務める。 |
専門家のコメント ー ワークプレイスストラテジスト 萩原大巳 ー
驚愕の空き室率18%超へ
日本の空室率は、渋谷区、港区で6.5%超えた。そのデータが発表され、東京5区の空室率も6%超えた。(賃貸面積100坪以上)【引用元】三鬼商事
東京では、店舗をはじめオフィスでも、賃料及び賃貸借条件の見直し協議が活発に行われています。
※参考「怒涛の撤退戦 多店舗閉鎖…苦渋の決断」 詳しく見る
ワシントンD.C.は世界の政治の中心地であり、空室率18%を超えても、金融市場、不動産価格も賃料も下落しておりません。
世界から、人・物・金・情報が集まり、基準通貨の発行権を持っている歴史上存在しなかった新しいスーパー覇権国です。
人口も常にアメリカンドリームを夢見る若者が移住し、常に成長し続ける超大国アメリカ。アメリカ人の心理として、Covid-19が収束すれば景気は力強く回復すると、大多数の国民が思っているのでしょう。
景気も「気」です。日本も景気が力強く回復し、再び元気な経済国になってほしいと思います。
萩原 大巳 (Hiromi Hagiwara)
一般社団法人RCAA協会 理事
オフィス移転アドバイザーとしての実績は、600社を超える。原状回復・B工事の問題点を日経セミナーで講演をする。日々、オフィス・店舗統廃合の相談を受けている。オフィス移転業界では、「ミスター原状回復」と呼ばれている。 |