コロナ後のワークプレイス「ニューノーマルとオウンドメディア戦略」

2022.02.01

井尻先生が語る コロナ後のワークプレイス

専門家のコメント ー ワークプレイスストラテジスト 萩原大巳 ー

未来:afterコロナの働き方とは

未来のワークスタイル、ライフスタイルに教科書もガイドラインもありません。

人間は本来横着な動物です。

  • TVがchannelから、リモコンになったように
  • ワードプロフェッサが、絶滅したように
  • ブリタニカの百科事典が絶滅したように

全て便利になったスタイルは過去には戻りません。

リモートワーク、ZOOM、デジタルシフトはますます加速するでしょう。

混沌の時代人間は地球規模で情報を共有し、競走から知の共有に向かうと思われます。

『ワクチンのメッセンジャーRNA、コロナ飲み薬もデータという知の共有』です。

その時のグローバルスタンダードは、会計基準はIFRSであり、プライバシー保護はGDPR、環境はCOP26、SDGs、EGS投資、不動産はGreen認証です。

 

ワークプレイスの存在意義は一言で表すと、行きたい、会いたい、集いたい!

明るく楽しく前向きな仲間が集う場です。

クライアントと一緒にワークプレイスを共創する。その変化対応力こそ私達の存在意義です。

生産性向上とビジネスパースンズのQOLの実現こそ、経営者の使命です。

そのステージが、ワークプレイス(オフィス)と思います。

 

~オミクロン爆速感染で感じた思い~ 一般社団法人RCAA協会理事長 萩原 大巳

 

萩原大巳

萩原 大巳 (Hiromi Hagiwara)

一般社団法人RCAA協会 理事
【協会会員】株式会社スリーエー・コーポレーション 代表取締役CEO

  • ワークプレイスストラテジスト
  • ファシリティプロジェクトマネージャー

オフィス移転アドバイザーとしての実績は、600社を超える。原状回復・B工事の問題点を日経セミナーで講演をする。日々、オフィス・店舗統廃合の相談を受けている。オフィス移転業界では、「ミスター原状回復」と呼ばれている。

 

はじめに -導入-

新型コロナウィルスのパンデミックによる4月7日に発せされた緊急事態宣言を受けて,多くの企業は準備不足のまま,急遽テレワークを導入しました。これまで「働き方改革」を掲げ,日本政府はテレワークの導入を促進してきました。ところが,総務省の調査によれば2018年では日本企業のテレワーク導入率は約20%と,アメリカの85%と比べ明らかに低水準となっています。しかし,今回のパンデミックにより期せずして,多くの日本企業はテレワークを導入し,新しい働き方を実践しました。この働き方は,企業経営にとってコロナ後のニューノーマル(新しい日常)となり,これに合った新たな経営戦略を構築する必要があります。
たとえば,日本電産の永守会長は,日本経済新聞(4月20日)に「50年、自分の手法がすべて正しいと思って経営してきた。だが今回、それは間違っていた。テレワークも信用してなかった。収益が一時的に落ちても、社員が幸せを感じる働きやすい会社にする。そのために50くらい変えるべき項目を考えた。反省する時間をもらっていると思い、日本の経営者も自身の手法を考えてほしい」とコメントを寄せています。きっと永守会長のように,これまでテレワークに懐疑的であったけれども,導入してみるとその有効性に気がついた経営者も数多くいるのではないでしょうか。
先の調査によれば,これまで80%の日本企業がテレワークの導入を避けてきました。つまり,このニューノーマルは,ほとんどの日本企業にとって「イコールフッティング」となっています。それゆえ,ニューノーマルにおいて自社をこれまで以上に輝かせるため,いまこそ新しい戦略を構築するべきタイミングです。
このコラムでは,ニューノーマルにおけるワークプレイスの戦略的再構築をとりあげます。それは,オフィスのデジタルトランスフォーメーションと言えるでしょう。

ニューノーマルな働き方 ー提案ー

2020年5月14日に日本の39県で緊急事態宣言が解除され,新型コロナウィルスの蔓延に注意しつつも,日本において経済活動を再開する動きが世界の主要国と同様に進められています。直ぐにパンデミック前の収益に戻ることは期待できませんが,徐々に改善していくと考えられます。しかし,ワクチンや有効な治療薬が無いために,しばらくの間は,このウィルスと共生していくことが求められ,ウィルス感染の再流行に気をつけながら社会活動を再開していくことになります。これがコロナ後のニューノーマルと呼ばれているスタイルになるのでしょう。
また,日本においては近い将来に生じ得る大地震や巨大台風などの自然災害の発生にも備える必要があります。それゆえ,私たちの社会は,これまで朧げにえていた様々な「リスク」と共生する時代になったと言えます。つまり,不確実な将来に漠然と不安を抱くのではなく,正しく備えることがリスクを減らすことに繋がります。これは個々の企業にとってはBCP(Business Continuity Plan,事業継続計画)の策定でもあります。

さて,新しい働き方を続けたいと考えているビジネスパーソンはどのぐらいいるのでしょうか。4月に実施されたドリーム・アーツ社の調査によれば,「通常勤務に戻ってもテレーワークを実施したい」と約7割の人が答えており,多くの人はテレワークの継続を求めています。
一方で,先の調査によれば,「オフィスで働く以上に生産性が高まっているとは感じていない」と回答した人は65%います。この結果は,テレワークによる生産性に関する労働者による自己評価は決して高くないことを示しています。しかし,これは,パンデミックにより急にテレワークを実施したため,多くの企業がテレワークを前提とする働きた方を整えられていなかったことに理由があると考えられます。実際,生産性が改善していない理由に,紙やハンコに関わる不便さや同僚とのコミュニケーション不足をあげています。これらは法改正を必要とするような事項ではなく,今後十分に改善できるはずです。
経営者は,準備不足であったにも関わらず,テレワークを求める声が7割を占めている事実を自社の生産性向上に繋げる好機とすべきです。

日本が抱え続ける課題

日本は他の先進国に比べ生産性が低いという課題を長らく抱えています。少子高齢化による労働力不足という日本固有の問題もあり,日本は生産性の早急な改善を迫られています。これが,日本政府が「働き方改革」を推進する理由の一つです。そして,個人にとっても生産性を改善できれば,賃金水準の上昇を期待することができ,好ましいと言えます。

図1に,2018年のOECD加盟国の1人当たりGDPと年間総労働時間を示しています。日本は,1人当たりGDPでは34カ国中18位に位置しています。1人当たりGDPは労働者の生産性を意味しています。つまり,この値が高いほど,労働者の生産性が高いということになります。したがって,今日の日本の労働者の生産性は,OECD加盟国に比べ決して高くはありません。それどころか,過去に比べて上位のOECD加盟国との差が拡がっています。たとえば,日本の1人当たりGDPは1990年頃にはアメリカを超えていましたが,2018年ではアメリカの70%程度に留まっています。この30年間に,残念ながら,日本の労働者の所得水準はあまり改善していません。これはデフレが続く日本国内に居る限りあまり気が付きませんが,海外に行くと良く分かります。たとえば,香港,シンガポール,オーストラリアなどに行くと,物価が日本よりも高いことを実感できるはずです。

また,図1をみると,一人当たりGDPの高い国ほど,年間の総労働時間が短い傾向にあります。長時間労働は生産性を押し下げてしまうようにも見えます。それゆえ,企業は生産性を高めるために,社員の労働環境を戦略的に整えるべきです。ニューノーマルは,それを実行し,所得水準を高める好機です。

図1 OECD加盟国の一人当たりGDP,年間総労働時間(2018年)

図1 OECD加盟国の一人当たりGDP,年間総労働時間(2018年)

出所:OECD データベースより筆者作成

 

テレワーク導入による企業評価の向上:日本マイクロソフト

パンデミック前に日本企業にテレワークの導入が進まなかった理由の一つに,導入コストの高さが指摘されています。しかし,テレワーク導入により生産性を改善できれば,その導入コストを十分にカバーすることができます。加えて,これは社会貢献にもなり企業評価を向上させる好機ともなります。

日本マイクロソフトは,2011年2月に品川へ本社オフィスを移転させる際に,サテライトオフィスも本社に集約化させています(その後,人事・採用戦略の大転換により社員数の増加が抑制され,1フロアを返却)。テレワークを含む働き方の改革により,それまでの課題の多くを改善することができています。それまで,日本マイクロソフトは,①低い生産性,②コミュニケーション不足による組織間連携の低さ,③情報共有不足による意志決定の遅さ,④空席率が高く非効率なオフィス環境,⑤紙資料の多さによる資源・環境への負担,⑥会議の多さ,⑦長時間労働によるワークライフバランスの不均衡,⑧女性の離職率の高さ,という経営上の課題がありました。

そこで,日本マイクロソフトは,品川へ移転後,テレワークの本格的導入に伴い,オフィスのデザインも変更しました。たとえば,フリーアドレス制や個人ロッカーを導入しました。このロッカーはそれまでのキャビネットよりも小さく,資料の保管スペースが減ったことにより,結果的に紙資料の削減ができたそうです。これはCSR活動でもあり,国連のSDGs(持続可能な開発目標)にも合致しており,企業の社会的評価の向上にも繋がります。

日本経済新聞(2018年3月28日)によれば,日本マイクロソフト社は,毎年,社員満足度調査を実施しているそうです。オフィス移転や一連の改革を実践する以前の2010年調査と比べて,2015年では,ワークライフバランスに対する満足度が40%向上したそうです。加えて,事業生産性(社員一人当たりの売上高)は26%増加し,働きがいは7%向上したそうです。さらには,女性の離職率が40%減少するなど,オフィス移転に伴い,テレワークを導入するなどにより多くの経営課題が改善しました。

また,社員によれば,テレワークにより,移動時間などの無駄な時間を削減できた分,顧客とのコミュニケーションを増やせた,という評価もあるようです。このような日本マイクロソフトの働き方改革は、突然成し遂げられたわけではないそうです。時間をかけて,経営課題を見直しし、オフィス環境を変え、社員にマインド変革を求め、新しいツールの導入などにより、努力を積み上げ結果であると評価しています。つまり,経営者の戦略的な判断に基づき,時間をかけて実行した改革の成果です。

また,厚生労働省(テレワーク総合ポータルサイト効果・効用)によれば,企業がテレワークを導入すると,①業務生産性向上,②新規雇用・離職防止,③社員のワークライフバランスの向上,④コスト削減/節電,⑤事業継続性確保(BCP対策)とされており,短期的なコスト削減だけではなく,長期的なコスト削減に繋がる効果があると考えら得ています。

ニューノーマルにおける新しい戦略を練る

企業の社会的評価の向上は,様々な良い効果をもたらしてくれます。たとえば,テレワークの導入に合わせオフィスのリストラを実施すれば,先のマイクロソフト社のようにSDGs(持続可能な開発目標)に貢献でき,ESG投資の対象になり投資家からの評価が向上すると期待できます。また,CSR活動などを通じて,企業が社会と良好な関係を築き社会的評価を高めることは,企業の抱える様々な課題の解決につながり得ます。

たとえば,シリコンバレーのテック企業には優秀な人材の獲得競争があります。そのため,ライバル企業と競い合ってキャンパス(広大なオフィスおよびその敷地)に働きやすい環境を作っています。テレワークの導入だけではなく,キャンパスには集中できる空間とリラックスできる空間を巧く組み合わせるなど,社員が働きやすくなる環境づくりを大切にしています。キャンパス内のカフェテリアでは有名なシェフが考えたメニューを提供するということもあります。社員が働きやすい環境=高い生産性。日本よりも成果を重視して社員を評価するアメリカ企業では,このような関係が成り立っているようです。もちろん,これは経営者がそうなるように練った戦略の結果です。

これは,シリコンバレーのケースであり,東京のような大都市とは事情が異なります。しかし,東京でも生産性向上を目指し,社員が働きやすい環境を整えることはできるはずです。

ニューノーマルでは日本においてもアメリカと同様に,多くの企業はテレワークを標準的な働き方と位置づけることになるでしょう。もはや,テレワークの導入は必然であると言えます。ただし,これだけでは他社との差別化を生むには十分ではないでしょう。それには企業の社会的評価を向上させ,優秀な人材を獲得できるなど,抱えている経営上の課題を解決する戦略が必要です。いま経営者が考えるべきことは,テレワークが標準化された先の経営戦略です。

先の日本電産・永守会長は「コロナ終息後は全く違った景色になる。テレワークをどんどん取り入れる劇的な変化が起きる。東京都内の会社に勤める人が山梨県に仕事部屋のある広い家を建てるようなケースが増えるだろう。企業は通勤手当をなくす代わりに給与を上げるほか、サテライトオフィスを作るなど抜本的に環境を改善すべきだ」と述べ,ニューノーマルを前提とする経営戦略の再構築の必要性を指摘しています。

また,「利益を追求するだけでなく、自然と共存する考え方に変えるべきだ。地球温暖化がウイ ルス感染に影響を及ぼすとの説もある。自然に逆らう経営はいけない。今回は戒めになったはずだ」とも述べており,今後,日本の多くの経営者の間にSDGsに貢献する意識が高まる可能性を示しています。

オウンドメディア戦略 ーワーキングプレイスの変化ー

ニューノーマルにおいて多くの企業は,日本マイクロソフトのようにテレワーク導入に伴い従来型のワークスペースを減らしていくでしょう。ニューノーマルはオフィスのデジタルトランスフォーメーションを進めます。

すでに,紙媒体に掲載するタイプの広告やテレビCMは減少しています。電通の調べによれば,2019年に日本では初めてインターネット広告費用がテレビCM費用を上回りました。現在,テレワークの導入,オンライン講義の実施等により,一般の人びとはネットワークを利用する時間がこれまでよりも伸びています。今後,企業は急速にインターネットを使った広報活動にシフトしていくでしょう。パンデミック下で,会場に多くの人を集めた対面セミナーなど様々なイベントを開催できず,やむを得ず急遽オンライン開催に切り替えた企業も多いことでしょう。同様に,採用活動もオンラインに切り替わっています。オフィスにおける様々な業務のデジタルトランスフォーメーションが急速に進んでいます。

ニューノーマルでは,始めからオンラインで開催することを前提にイベントを企画するようになります。そこで,ネット上での自社の評価が今までよりも大切になります。個人に置き換えれば,インスタグラムやツイッターのフォロワー数,いいねの数など,ネット上で一定以上のインフルエンスを持っていることが鍵になります。ただし,必ずしも,幅広く社会でインフルエンスを持つ必要は無く,自社のビジネスに関わる領域で目に止まるような情報を発信し,自社の存在を知ってもらうことが大切になります。

これは,いわゆるオウンドメディア戦略と言われている手法であり,特に新しいものではありません。しかし,これまで多くの企業は広告代理店任せの従来型のメディアを利用した広告が中心であったと思います。そのため,オウンドメディアを担当する人材を十分に採用している企業は多くはないでしょう。ましてや,オフィスはオウンドメディア戦略を実行するのに最適化されているわけではありません。

自社の製品・サービスの良さを一番知っている人は,きっと社内にいるはずです。彼らの自社に対する知識を生かし,必要に応じて業務を外部の専門家にアウトソーシングし,自社のオリジナルのオウンドメディア戦略を立案し、それを実現できるようオフィスのリモデルを進め、他社との差別化に取り組むことが大切になります。

テレワークの導入を足がかりに社員の働きやすさを一層高め,CSR活動に積極的に取り組み,オウンドメディアで社会に発信していく。社会的評価を高めることは,自社の様々な課題を解決することになります。

まとめ ーオフィスのデジタル・トランスフォーメーションー

新型コロナウィルス後のニューノーマルにおいて,これまでとは違う働き方を実践していくことになります。テレワークの導入により,365日出社しないでも良い働き方に変わります。これにより,必要なオフィスの施設・レイアウトは従来とは大きく変わります。

今後,固定された机・椅子の代わりにオウンドメディア戦略を実践する施設がオフィスに必要になり得ます。たとえば,防音・音響を考慮した動画・セミナーを録画,配信する施設などが必要になる企業もあるでしょう。

テレワークの導入など様々な方法により社員が働きやすい環境を整え,そして社外からも共感を得られるような社会貢献を実施する。これを経営上のミッションに位置づけることは,企業の生産性向上に貢献するだけではなく,企業のブランド価値を高めていくことにも繋がります。ニューノーマルにおけるオフィスのデジタルトランスフォーメーションは,競争力の獲得の好機です。

 

参考資料

  • 日本経済新聞:https://style.nikkei.com/article/DGXMZO28299240Z10C18A3000000/
  • 厚生労働省:https://telework.mhlw.go.jp/effect/
  • 電通:https://www.dentsu.co.jp/news/release/2020/0311-010027.html

記事作成者

 

井尻直彦教授

井尻 直彦(いじり なおひこ)

日本大学経済学部教授,前経済学部長。専門は国際経済学。静岡英和学院大学を経て,2003年より日本大学経済学部に奉職。OECDコンサルタントなどを経験。日本大学経済学部卒業,英国Nottingham大学大学院修士課程(MSc)修了。2019年よりNPO法人貿易障壁研究所(RIIT)を立上げ,理事長・所長を務める。
【NPO法人貿易障壁研究所(RIIT)】https://riit.or.jp
【研究業績】Research map https://researchmap.jp/read0193441
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