コロナ禍の外食産業とDX

2021.07.06

昨年のコロナ禍で多くの外食産業が苦境に陥っている。

下記の財務表を参照すると、

店舗内飲食主流である居酒屋チェーンなどを展開するワタミはかなり厳しい状況になっている。

一方、テイクアウトやドライブスルーが主体のマクドナルドは売上高、営業利益、純利益ともに増加。

自己資本比率は、ワタミが10%前後で低迷しているのに比べると、マクドナルドは75.1%と驚異的な数字となった。

 

表1「ワタミ」

表2「マクドナルド」

 

焼き肉和民のDX導入で現在は

 

焼肉の和民は、コロナ禍のライフスタイル“ニューノーマル”に対応した、高品質な焼き肉をリーズナブルな価格で提供する焼き肉店として、2020年10月に1号店を東京都大田区にオープン。

早くも、3大都市圏で23店にまで拡大している。

居酒屋から業態転換した1号店の大鳥居駅前店は、20年10~11月の売り上げは前年比で283.6%。3倍近い大幅な売り上げ増となった。一方、「和民」などの居酒屋業態は59.2%にとどまった。この検証の結果を踏まえ、居酒屋業態120店を焼肉業態に転換する。

そして焼肉の和民はコロナ禍によって開発された業態だけに、感染症対策を十分に行ったうえで、外食の楽しみを提供しようといった姿勢を打ち出しているのが特徴としている。

回転寿司でおなじみの商品を席まで速達する「特急レーン」を導入。注文は席で、タッチパネルを使って行う。また、食べ終わったお皿を下げる際に、店員ばかりでなく、配膳ロボットが活躍する。従来の居酒屋業態に比べて、最大で接客による接触を80%削減しており、非接触性が高い店舗にするためにDXを取り入れてる。初期投資高い分、過当競争での撤退もまた今後繰り返されるだろう。

 

「ワタミ」は、なぜ焼肉に業態変化したのか?

焼肉は、お客様が自ら焼く、そして調理いらず、勝負は高品質の肉を大量に安く仕入れすることである。ワタミの調達力と食材をみる目利力。その強みを存分に発揮できる客単価の高い外食産業である。

また外食産業も「晴れ消費」、「目的消費」の傾向がある。家族で外食する際、たとえば「今日は娘の誕生日だから、みんなで何食べる?」となり、そしたら焼肉、お寿司、天ぷらなど検索し、地域No.1店に行くお客様が多い。

※ワタミ株式会社(本社:東京都大田区)は、経済産業省と東京証券取引所が実施する「デジタルトランスフォーメーション銘柄(DX銘柄)2020」の「DX注目企業2020」に選定された。

 

またワタミはテイクアウトの需要が多い唐揚げ専門店「から揚げの天才」、韓国フライドチキン「bb.qオリーブチキン」といった新ブランドや、デリバリーの「ワタミの宅食」など、ニューノーマルに向いた業態の強化・拡大に熱心だ。特に、から揚げの天才は92店(4月6日現在)まで増えた。居酒屋を中心としたビジネスモデルからの脱却へと本当に覚悟を決めたことが財務内容からわかる。

これは、マクドナルド、ケンタッキーフライドチキンなど競合と仮定し、アジア人に人気のテイクアウト、マーケティングを活用した新事業態と思われる。またオリーブなどヘルシー食を全面に打ち出している。

残念なことに焼肉の和民は口コミなどで評判があまりよくないが改善の余地はあるので是非ともがんばっていただきたい。

 

マクドナルドの

マクドナルド
akiragiuliaによるPixabayからの画像

マクドナルドは、約20年ほど前から顧客情報を取得し配信メールを開始していた。そのデータを現在も活用し、数年前から将来の需要を見越してモバイルオーダーの仕組みを構築していた。それがコロナ禍を経て収益向上の起爆剤となった。

デジタル、デリバリー、未来型店舗

マクドナルドが当時、重点施策に挙げた3つはいづれもコロナ禍で有効とされる施策に通じるもの。マクドナルドはそこに3年前から注力していたのだ。そう考えれば、2020年の業績は当然であり、むしろ施策の効果を存分に発揮できる状況が期せずして到来したともいえる。

デリバリーについては、2019年6月に526店舗だった対応店舗が2020年12月には1518店舗へ拡大。UberEats(1303店舗)に続き出前館(887店舗)とも提携し、41都道府県をカバーするデリバリー体制を構築した。2021年はいよいよ全国47都道府県網羅を視野に入れる。

 

未来型店舗は、スマホアプリ「モバイルオーダー」で注文から決済までをアプリで完結できるサービスを軸にしたもので、顧客の商品受け取りまでの時間を最小限にする。これを横展開した「パーク&ゴー」は、2020年5月に開始。ドライブスルーの進化系ともいえ、モバイルオーダーで注文済みの商品をクルーが駐車場まで運んでくれる。至れり尽くせりのこのサービスは、コロナ禍のファミリー利用を促進した。

 

デジタルテクノロジーをクルーの接客と融合し、おもてなしのために活用するマクドナルドのこうしたスタンスはもはや接客業の域を超え、商品へのアクセシビリティの追求といっていいほどの徹底ぶり。

 

結果的にコロナという非常時でも、快適さが損なわれることなく、食の提供という側面で極めて有効に機能し、マクドナルド商品の潜在的なデリバリー需要の掘り起こしにつながった。

過去から現在までを分析するとマクドナルドは、 いま技術がなくても、こういう未来やサービスがあると望ましいという発想で考えていった結果、有益なDXにつながったのだと思う。

 

これからの店舗は、データを有効活用しなければ生き残れない時代になった。技術の進化も日進月歩だが、未来を予測することは容易ではない。だからこそ、未来の理想形を考え、逆算して今をとらえる思考法にしなければならない。「今はまだできないが、こういう未来やサービスが出てくるだろう」という発想で店舗経営が重要になってくる。今までもこれからも、人が便利に豊かに生活できることを基本にある。それを前提にすると未来の理想形が見えてくるのではないだろうか。

 

萩原大巳 萩原 大巳 (Hiromi Hagiwara)

一般社団法人RCAA協会 理事長
【協会会員】株式会社スリーエー・コーポレーション 代表取締役CEO

  • ワークプレイスストラテジスト
  • ファシリティプロジェクトマネージャー

オフィス移転アドバイザーとしての実績は、600社を超える。原状回復・B工事の問題点を日経セミナーで講演をする。日々、オフィス・店舗統廃合の相談を受けている。オフィス移転業界では、「ミスター原状回復」と呼ばれている。