店舗数を増やすだけが成長ではない――収益力を左右する家賃・管理費のミエルカ
これから求められるのは、店舗数を追うだけでなく、一店舗あたりの収益力を高める経営です。その鍵の一つが、家賃・管理費を経営数値として管理することです。
ファミリーレストランの代表格であるロイヤルホストを展開するロイヤルホールディングスは、中期経営計画でロイヤルホストの戦略的リロケーションを掲げ、価値向上のための改装や厨房の生産性向上にも投資しています。採算や将来性を見極め、収益性の高い場所と事業へ経営資源を集中する。これは、単なる店舗の閉鎖ではなく、次の成長に向けたスクラップ・アンド・ビルドです。
戦略的リロケーションの要諦は、更新するのか、退去するのかを早い段階でミエルカすることにあります。その判断には、売上だけでなく、賃料・管理費が店舗の収益力に見合っているかを確かめる必要があります。退去を選ぶ場合も、契約に基づく原状回復義務の範囲を確認し、原状回復工事の適正査定を行ったうえで、敷金・保証金の返還まで見通しを立てる必要があります。
サイゼリヤも、手頃な価格を守りながら、店舗運営やサプライチェーンの仕組み化、DX、アジアを中心とした海外展開を進めています。過去に投じた費用を惜しむあまり、収益基準に合わない店舗や事業を続ければ、次の成長機会を失います。サンクコスト(埋没費用)にとらわれず、将来の収益性を基準に続けるか撤退するかを判断することが重要です。
この考え方は、大手チェーンだけのものではありません。地域の常連客に愛される街中華のようなファミリー企業にも共通します。寡黙な料理人と明るく歯切れのよい接客、そして二代目、三代目による事業承継。私は、このような姿勢を「ATM経営、明るく、楽しく、前向きに」と呼んでいます。
ただし、明るさや常連客との信頼だけで経営は続きません。減価償却と損益分岐点を把握し、家賃・管理費をミエルカすることが必要です。大手企業でもファミリー企業でも、賃料は毎月発生する大きな固定費です。更新や再契約の時期を迎えてから慌てるのではなく、入居中から契約条件と退去費用を把握しておく。それが、これからの店舗経営に欠かせない準備だと考えています。
このように、出店を続けるのか、契約を更新するのか、それとも移転・退去を選ぶのかを判断するうえで、家賃・管理費は避けて通れません。これは飲食店に限らず、オフィスや店舗を借りるすべての企業に共通する経営課題です。
賃料値上げの通知を受けても、提示された金額に直ちに同意しなければならないとは限りません。まず確認すべきなのは、値上げ率だけではなく、自社の契約が普通借家か定期借家か、そして今回の提示が契約期間中の改定、更新、再契約、新規契約のどれに当たるのかという点です。
そこで本稿では、普通借家と定期借家の違い、借地借家法32条の基本、賃料値上げ通知を受けた後の確認手順、移転・退去費用まで含めた判断方法を整理します。個別の契約に対する法的判断や相手方との交渉は、弁護士へ確認してください。
賃料値上げでは契約形態の確認が出発点になる
賃料改定の通知には、「更新後の新賃料」「再契約条件」「賃料増額請求」など、似た言葉が使われます。しかし、その意味は同じではありません。普通借家には更新の仕組みがあり、貸主が更新を拒絶するには借地借家法28条の正当事由が問題になります。一方、定期借家は原則として期間満了により終了し、継続するには再契約について新たに合意する必要があります。
この違いを見落とすと、本来は検討できた条件を十分に確認しないまま合意してしまったり、定期借家の満了時期を過ぎて移転準備が間に合わなくなったりします。賃料だけを見るのではなく、契約期間、解約条件、原状回復、工事区分、敷金・保証金まで含めて確認することが重要です。
普通借家の更新 定期借家の再契約 新規契約を区別する
賃料の変更が提示される場面は、大きく次の3つに分けられます。
| 場面 | 主な法的枠組み | 契約の扱い | 借主の確認事項 |
|---|---|---|---|
| 普通借家の更新・契約継続中 | 借地借家法26条・28条・32条 | 更新拒絶には正当事由が必要。期間満了後に法定更新となる場合がある | 増額請求の根拠と相当額を検討する。提示額への同意とは別問題 |
| 定期借家の期間満了・再契約 | 借地借家法38条 | 原則として期間満了で終了。継続には再契約の合意が必要 | 賃料だけでなく、期間・解約・原状回復など新条件全体を比較する |
| 新規賃貸借契約 | 当事者間の新たな合意 | 新規の契約条件として賃料を設定 | 将来の賃料改定条項、特約、退去条件まで契約前に確認する |
定期借家契約の期間が1年以上の場合、貸主は原則として期間満了の1年前から6か月前までの間に、契約が終了する旨を借主へ通知する必要があります。通知が遅れた場合、貸主は通知から6か月を経過するまで契約終了を借主に対抗できません。
ただし、通知の遅れだけで定期借家契約が普通借家へ変わるわけではありません。契約締結時の事前説明など、別の成立要件と分けて確認する必要があります。
借地借家法32条は賃料を一方的に確定する制度ではない
借地借家法32条は、建物の借賃が一定の事情によって不相当となった場合に、貸主・借主の双方が将来に向かって賃料の増額または減額を請求できる制度です。条文では、主に次の事情が例示されています。
- 土地・建物に対する租税その他の負担の増減
- 土地・建物の価格の上昇・低下、その他の経済事情の変動
- 近傍同種の建物の賃料との比較
ただし、貸主が値上げを通知したからといって、通知書に記載された金額がそのまま最終賃料として確定するわけではありません。現行賃料が不相当か、相当な賃料はいくらかは、契約締結時の経緯、過去の改定、物件条件、周辺相場、当事者間の事情なども含めて検討されます。
増額について協議が整わない間、借主は自ら相当と認める額を支払うことができます。ただし、裁判で確定した額が支払額を上回れば、差額に年1割の利息を付して支払う必要があります。支払額の判断や貸主が受領を拒む場合の供託には法的な検討が伴うため、自己判断で賃料の支払いを止めず、早い段階で弁護士へ確認することが重要です。
定期借家では賃料改定特約も確認する
定期借家であっても、契約期間中の賃料改定について借地借家法32条が問題になることがあります。ただし、賃料改定に関する特約がある場合には、同条が適用されないことがあります。固定賃料、段階賃料、指数連動、増減額請求を制限する条項など、契約書の文言を個別に確認してください。
一方、期間満了後の再契約は、新しい契約条件について合意できるかという問題です。契約期間中の増減額請求と、再契約条件として提示された新賃料を混同しないことが大切です。
値上げ通知を受けた企業が確認する5つの手順

手順1 契約書と関連資料をそろえる
賃貸借契約書だけでなく、覚書、更新合意書、重要事項説明書、定期借家の事前説明書、過去の賃料改定記録、貸主から届いた通知書をそろえます。メールや配達記録を含め、通知を受け取った日も記録してください。
手順2 今回の通知がどの場面かを判定する
普通借家の契約期間中の増額請求なのか、更新時の条件提示なのか、定期借家の再契約条件なのかを確認します。通知書の表題だけで判断せず、契約書の契約種類、期間、更新・再契約条項と照合します。
手順3 値上げの根拠資料を確認する
貸主が示す周辺相場、公租公課、地価、物価、建物の改修内容などを確認します。募集賃料は新規契約の希望条件であり、現在の契約を継続する場合の賃料と同じとは限りません。比較対象の立地、築年数、面積、階数、設備、契約条件が自社物件と近いかも確認します。
手順4 結論を急がず書面で回答する
検討が必要な場合は、通知を受領したことと、内容を確認中であることを期限内に書面で伝えます。改定額に同意していない場合は、その意思を曖昧にしないことが重要です。新賃料の支払いが合意と評価されるかは経緯によって異なるため、支払方法も含めて弁護士へ確認してください。
手順5 残留と移転を総コストで比較する
賃料の上昇分だけで判断すると、経営上の選択を誤ることがあります。残留する場合の賃料・共益費・契約期間と、移転する場合の原状回復、B工事、引っ越し、内装、休業、二重賃料、敷金・保証金を同じ期間で比較します。
契約時の確認項目は、RCAA協会の 賃貸借契約書の重要ポイント6選 も参考になります。移転・退去を選択肢に含める場合は、原状回復費用とB工事の適正価格の考え方もあわせて確認してください。
裁判例の増額率を自社にそのまま当てはめない
賃料増額が争われた裁判例には、比較的大きな増額が認められた事案があります。しかし、その背景には、契約当初に特別に低い賃料が設定されていた、長期間据え置かれていた、将来の増額が予定されていた、といった個別事情がありました。
| 裁判例 | 改定内容 | 増額率 | 主な背景 |
|---|---|---|---|
| 東京高裁 2008年4月30日 | 58万3,800円から89万2,000円 | 約53% | 他のテナントより特別に低い賃料とされ、契約後の増額が予定されていた |
| 東京地裁 1994年2月7日 | 30万円から48万9,224円 | 約63% | 当事者間の特殊事情により低額で据え置かれ、その事情が解消した |
| 東京地裁 2017年10月11日 | 10万円から13万9,000円 | 39% | 個人的関係と借主への配慮により低額で、後の増額が想定されていた |
| 東京地裁 2017年4月19日 | 30万8,571円から35万6,670円 | 約15% | 鑑定結果に基づき相当賃料が認定された |
出典:弁護士法人朝日中央綜合法律事務所『賃料増減額訴訟における増減額幅の実態(判例を中心に)』をもとにRCAA協会が整理。数値は各事案の結果であり、同じ増額率が他の案件に認められることを示すものではありません。
借主が避けたい5つの対応
- 契約形態と通知の意味を確認せず、その場で署名・押印する
- 改定額に同意していないのに、意思表示をしないまま新賃料を支払う
- 値上げに納得できないという理由だけで、賃料の支払い自体を止める
- 普通借家の更新と定期借家の再契約を同じ手続きとして扱う
- 賃料だけに注目し、原状回復・B工事・移転費用・敷金返還を比較しない
とくに、支払いを止めることは契約違反や解除をめぐる新たな問題につながり得ます。反対に、改定後の賃料を支払った場合も、その経緯によっては合意の有無が争点になることがあります。通知を受けたら、回答と支払いを別々に考えず、書面と証拠を残しながら対応してください。
新規契約と再契約では出口条件まで確認する
賃料改定の問題は、入居時の契約設計と切り離せません。新規契約や定期借家の再契約では、現在の賃料だけでなく、将来の改定方法と退去時の負担を確認します。
- 賃料改定の時期、基準、算定方法
- 借地借家法32条との関係を定める特約
- 契約期間、中途解約、違約金、再契約の手続き
- 原状回復の範囲、スケルトン返し、工事区分
- 指定業者、B工事、見積確認の手続き
- 敷金・保証金、償却、返還時期
賃料を抑えられても、解約制限や原状回復条件が重ければ、契約期間全体の負担は大きくなることがあります。契約を『月額賃料』ではなく、『入居から退去までの総コスト』で見ることが重要です。
RCAA協会には値上げ通知を受けた段階で相談できる
RCAA協会では、オフィス・店舗の賃貸借契約、移転、退去、原状回復、B工事に関する相談を受け付けています。賃料値上げの通知を受けた段階で、契約書や通知書などの資料を確認し、今回の問題が契約期間中の改定、更新、再契約のどれに当たるのか、移転・退去まで含めて何を検討すべきかを整理します。
契約条項の法的解釈、借地借家法32条に基づく賃料増減額請求、相手方との交渉など、法律事務に当たる対応が必要な場合は、弁護士が担当します。RCAA協会は相談の入口として状況と資料を整理し、内容に応じて適切な専門家と連携します。
社内で結論が出てからではなく、署名・押印、新賃料の支払い、再契約期限の前に相談することで、残留、条件見直し、移転という選択肢を比較しやすくなります。
理事・萩原大巳の所見――賃料だけで判断してはいけない
賃料改定は、単に貸主と借主のどちらが強いかという問題ではありません。契約形態、現在の賃料、周辺相場、これまでの経緯、今後の事業計画を資料に基づいて整理し、双方が説明可能な条件を探る問題です。
一方、テナント企業では、賃貸借契約の更新や再契約を頻繁に経験する担当者は多くありません。貸主側との情報量の差があるまま判断期限を迎えると、賃料だけでなく、契約期間や退去条件まで十分に検討できないことがあります。
RCAA協会は、入居、契約継続、移転、退去を別々の問題として扱うのではなく、賃貸借契約のライフサイクル全体から判断材料を整理することが、テナント企業の合理的な意思決定と業界の健全化につながると考えています。
FAQ
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賃料値上げの通知が届いたら、すぐに署名・返信する必要がありますか
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提示された金額に直ちに同意する必要があるとは限りません。ただし、回答期限を放置せず、通知を受け取ったことと内容を確認中であることを書面で伝えてください。署名前に、契約形態、改定条項、値上げの根拠を確認することが重要です。
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定期借家契約でも賃料の減額を請求できますか
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契約期間中については、賃料改定に関する特約の内容によって借地借家法32条の適用が変わります。期間満了後の再契約は、新たな契約条件への合意の問題です。契約書の条項を弁護士に確認してください。
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普通借家で値上げに同意しないと、更新を拒否されますか
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値上げに同意しないことと、契約更新の可否は同じ問題ではありません。普通借家で貸主が更新を拒絶するには、借地借家法28条の正当事由が問題になります。もっとも、個別事情によって判断が異なるため、通知内容を確認してください。
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賃料値上げの通知を受けた段階でRCAA協会に相談できますか
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はい。賃貸借契約書、覚書、貸主からの通知書、過去の改定資料などをご用意ください。RCAA協会の窓口で状況と検討事項を整理し、契約条項の法的解釈や相手方との交渉などが必要な場合は、弁護士と連携します。
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裁判例の増額率は自社のケースにも当てはまりますか
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そのまま当てはめることはできません。裁判例の増額率は、契約当初の賃料設定、物件条件、当事者間の経緯、鑑定結果など、個別事情に基づくものです。数字だけでなく、裁判所がどの事情を重視したかを確認する必要があります。
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賃料改定について合意できない場合はどうなりますか
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普通借家の賃料増減額請求では、原則として調停を経て、合意できなければ訴訟で相当賃料が判断されます。定期借家の再契約条件に合意できない場合は、法定の手続きや契約内容を前提に、期間満了による終了が問題になります。いずれも早めに弁護士へ相談してください。
まとめ
賃料値上げの通知を受けたときは、値上げ率だけで判断せず、普通借家か定期借家か、契約期間中の改定か再契約かを最初に確認してください。そのうえで、契約書、通知書、根拠資料、過去の経緯をそろえ、残留と移転を総コストで比較します。
RCAA協会では、賃料改定と、移転・退去に伴う原状回復やB工事を切り離さず、企業が判断するために必要な論点と資料を整理します。法的判断や相手方との交渉が必要な場合は、弁護士が担当します。
賃料改定の通知を受けたら、署名前に状況を整理してください
賃貸借契約書と貸主からの通知書をご用意のうえ、RCAA協会へご相談ください。賃料だけでなく、契約継続、移転、原状回復、B工事まで含めて確認すべき項目を整理します。
オフィス・店舗の契約更新、再契約、移転・退去に関するご相談を受け付けています。法的判断や交渉が必要な場合は、弁護士と連携します。
【出典一覧】
• 借地借家法 第26条 第28条 第32条 第38条
• 民事調停法 第24条の2
• 民法 第494条 第495条
• 弁護士法人朝日中央綜合法律事務所 賃料増減額訴訟における増減額幅の実態
免責事項
本記事は、オフィス・店舗の賃貸借契約に関する一般的な情報を提供するものであり、個別案件に対する法律上の助言や結果の保証を目的とするものではありません。契約内容や事実関係によって結論は異なります。具体的な法的判断、賃料増減額請求、相手方との交渉については弁護士へご相談ください。
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投稿者プロフィール

- 理事
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【協会会員】株式会社スリーエー・コーポレーション 代表取締役CEO
・ワークプレイスストラテジスト
・ファシリティプロジェクトマネージャー
オフィス移転アドバイザーとしての実績は、600社を超える。原状回復・B工事の問題点を日経セミナーで講演をする。日々、オフィス・店舗統廃合の相談を受けている。オフィス移転業界では、「ミスター原状回復」と呼ばれている。
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