オフィス移転や店舗退去時に提示される原状回復費用やB工事の見積に対し、「この金額は本当に妥当なのか」と感じた経験はないでしょうか。
近年は建設費の上昇や人手不足を背景に、工事費全体が高騰しています。一方で、見積の内訳や相場がわかりにくいことから、発注者側が判断に迷うケースも増えています。
本稿では2026年の不動産市場環境を踏まえ、原状回復・B工事の費用構造と相場観、そして「適正価格」をどのように捉えるべきかを整理します。
なお、本稿で示す数値には、国土交通省などの公的資料に加え、RCAA協会・株式会社スリーエー・コーポレーションによる3,900件超の取扱実例をもとに整理された目安値が含まれます。個別案件の費用や減額成果を保証するものではなく、あくまで一般的なレンジや傾向としてご参照ください。
2026年の不動産トレンドは「新築偏重」から「既存活用の合理性」へ
2026年の不動産・ワークプレイス関連の動きを見ると、企業は単純な拡張や新設よりも、既存資産をどう活かすかに重心を移しつつあります。SDGs・ESGの浸透、ハイブリッドワークによるオフィス再編、そして不確実な経済環境のなかでの初期投資抑制ニーズが、その背景にあります。移転や退去の場面で原状回復・B工事が注目されるのは、この「既存活用の合理性」が経営実務に入り込んできたからです。
一方で、工事費のベースとなる外部環境は軽くありません。国土交通省によれば、公共工事設計労務単価は2026年3月適用分で全国全職種単純平均が前年度比4.5%上昇し、14年連続の引き上げとなりました。全国全職種加重平均値は25,834円となり、初めて25,000円を超えています。工事費をめぐる前提そのものが上がっている以上、発注者側にも「妥当性をどう判断するか」という視点がこれまで以上に求められています。

B工事費が高騰する本当の理由|2024年問題・人手不足・AI需要で建設コストはなぜ上がるのか【2026年版】
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なぜ既存活用が重要になるのか
既存活用が重要になる理由は、コストだけではありません。スクラップ&ビルドよりも、使えるものを活かす発想は、環境配慮や資源効率の面でも説明しやすく、社内決裁においても合理性を持ちやすいからです。加えて、働き方の多様化によってオフィスの役割そのものが再定義されるなか、全面刷新よりも、縮小移転、部分改修、居抜きのような選択肢が現実的になっています。
ただし、既存活用が広がるほど、原状回復やB工事は「付随業務」ではなくなります。退去時の復旧範囲、入居時の工事区分、既存設備の再利用可否など、見積の解釈一つで投資総額が変わるからです。経営側から見れば、これは単なる工事論点ではなく、キャッシュフローや投資効率の論点でもあります。
原状回復・B工事の構造的課題
原状回復・B工事が難しいのは、個々の担当者の知識不足だけが理由ではありません。そもそも、指定業者制度が採用されやすいこと、A工事・B工事・C工事の境界がわかりにくいこと、そして発注者と施工側の情報量に差があることが、判断を難しくしています。とくにB工事では、借主が費用を負担していても施工会社を自由に選べないため、一般的な相見積もりの発想がそのまま機能しない場面があります。
また、見積書の実務では、「一式」表記、過剰な数量計上、必要以上の仕様設定、諸経費や管理費の重複など、専門知識がなければ見抜きにくい論点が混在しやすいとされています。国土交通省の原状回復ガイドラインは民間賃貸住宅を主対象とするものですが、経年変化や通常損耗は原則として賃料に含まれるという考え方を示しており、事業用物件でも契約特約との関係を整理する際の参考軸として広く参照されています。
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実際に起きる損失はどこから生まれるのか
RCAA協会の整理によれば、原状回復費の目安レンジは、オフィス中グレードで中央値7.5万円/坪、高グレードで15万円/坪、店舗飲食では中グレードで20万円/坪、高グレードで32.5万円/坪です。工事条件による振れ幅は大きいものの、そもそもの単価帯が小さくないため、数量や仕様のわずかな差でも総額への影響は無視できません。

代表モデルケースでも、オフィス原状回復50坪では850万円が620万円、100坪では1,700万円が1,220万円、オフィス入居のB工事80坪では2,000万円が1,400万円という整理が示されています。ここで重要なのは、「必ず下がる」という話ではなく、見積の精査によって価格の解像度が上がり、結果として25〜30%前後の調整余地が見いだされるケースがある、という点です。

損失の発生要因を見ると、単価水増しが30%、数量の過大計上が20%、過剰仕様が20%、不要工事の混入が15%、諸経費・管理費の過多や二重計上が15%という構成比になっています。つまり、問題は特定の一項目ではなく、見積の複数箇所に少しずつ入り込む「構造的な積み上がり」にあります。

さらに、案件規模別の参考値では、30〜50坪で平均減額額150〜300万円、50〜100坪で300〜700万円、100〜300坪で700〜1,800万円、300坪超では1,500〜3,000万円というレンジが示されています。規模が大きいほど、精査の有無が経営インパクトに直結しやすいことがわかります。

解決の方向性は「対立」ではなく「透明性の向上」
ここで重要なのは、原状回復・B工事を「誰かが悪い」という話にしないことです。建設業全体で見れば、人手不足や資材高、工期制約といった外部要因は現実に存在しています。実際、国土交通省の建設労働需給調査でも、2026年2月時点で全国8職種は0.3%の不足でした。工事費が上がりやすい環境そのものは否定できません。
そのうえで発注者側に必要なのは、感情的な値下げ要求ではなく、契約書、図面、見積、工事区分、公的な考え方を照合しながら、どこまでが妥当かを整理するプロセスです。適正価格とは、単に安い価格ではなく、説明可能で再現性のある価格です。この考え方なら、オーナーや管理会社との関係性をいたずらに損なうことなく、合理的な合意形成を目指しやすくなります。
まとめ
2026年の原状回復・B工事を考えるうえで大切なのは、「高いか安いか」を感覚で語ることではありません。既存活用が進み、工事費の上昇圧力が続く時代だからこそ、発注者側も見積の中身を理解し、合理的に判断できる状態をつくることが重要です。原状回復・B工事は、コスト削減の対象というより、経営の透明性を高めるテーマとして捉え直すほうが、いまの時代には合っています。
原状回復やB工事の見積は、案件ごとに条件差が大きく、外形的な比較だけでは判断しにくい領域です。もし自社案件で「この金額は妥当なのか」「どこを確認すべきか」を整理したい場合は、まず見積書・図面・契約条件を並べて、論点を可視化するところから始めるのが現実的です。必要に応じて、第三者のセカンドオピニオンを活用するという選択肢もあるでしょう。
【参考文献・出典一覧】
- 国土交通省 各種公表資料(労務単価・ガイドライン等)
- 日本建設業連合会 ほか業界団体資料
- 各種業界専門メディア調査(2025年)
- RCAA協会・株式会社スリーエー・コーポレーション 実務データ(3,900件超)
※本記事は公的統計および実務データを基に作成しています。
免責事項
本記事に記載された情報は、公的統計および当協会の取扱実例に基づく一般的な傾向・参考値であり、特定の案件における結果を保証するものではありません。実際の費用および減額効果は、契約条件・物件仕様・施工条件等により変動します。
投稿者プロフィール

- 理事
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【協会会員】株式会社スリーエー・コーポレーション 代表取締役CEO
・ワークプレイスストラテジスト
・ファシリティプロジェクトマネージャー
オフィス移転アドバイザーとしての実績は、600社を超える。原状回復・B工事の問題点を日経セミナーで講演をする。日々、オフィス・店舗統廃合の相談を受けている。オフィス移転業界では、「ミスター原状回復」と呼ばれている。
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