はじめに
予期せぬ形で世界を襲った新型コロナウイルスのパンデミック。国際都市はロックダウンし、感染拡大が瞬く間に広がった結果、世界は急速に国境を超えたデジタル社会へと移行しました。
日本でも、このデジタル化に対応するため、法制度の見直しが次々と行われています。2022年4月には改正民法が施行され、2024年4月には働き方改革の新法、同年11月にはフリーランス新法が施行される予定です。また、インボイス制度やマイナンバーカードの本格的な活用も始まり、デジタルシフトはますます加速しています。
一方で、全国360万社に及ぶ中小企業は、物価の上昇や賃金の引き上げに加え、コロナ融資の返済が始まり、厳しい経営環境に直面しています。廃業や倒産は戦後最多を記録し、国や銀行も生産性向上が見込めない中小企業への支援を渋る現状にあります。
そんな厳しい経済状況の中でも、変化をチャンスと捉え、積極的に拠点戦略やDX(デジタルトランスフォーメーション)、CX(顧客体験)の最適化を追求する経営者も存在します。
古代ローマ人は、混迷した世界を「平和と秩序の女神パスクがいない世界」と表現しました。現代の経営者も、まさにこの「パスクなき世界」で生き残るために、柔軟で前向きな思考を持っています。
例えば、ある経営者はオフィスを「働き方改革のショールーム」と定義し、IoTやAI技術を活用して、場所や時間に縛られない働き方を実現しています。混雑を避けるため、他社の社員やフリーランスが自由に出入りできるラウンジを設置するなど、オープンな戦略も取り入れています。彼らはオフィスを「ワークスタイルのショールーム」とし、それを「ワークプレイス」と呼んでいます。
また、成功している経営者には共通して、キャッシュフロー経営に徹しているという特徴があります。オフィス移転には多額の資金が必要ですが、彼らは費用の安さよりもスピードとコストパフォーマンスを重視しています。移転全体を俯瞰し、オーナー指定の入居B工事や移転元の原状回復工事の費用を徹底的に精査し、適正なコストで発注します。また、不明な点があれば積極的に学び、専門家にアウトソーシングすることを常としています。
本コラムでは、オフィス移転において押さえておくべき重要なポイントを解説していきます。
オフィス移転のメリット
作業効率の向上
オフィス移転に伴い、レイアウトの見直しや最新設備の導入が可能になります。部署間の連携が取りやすくなり、動線が最適化されることで、無駄な移動時間を減らすことができます。また、清潔で整理されたオフィス環境は、従業員の集中力や生産性を高める効果があります。
従業員のモチベーション向上
オフィス環境が改善されることで、従業員のモチベーションも向上します。おしゃれで機能的なデザインや快適な設備を取り入れることにより、従業員は職場に対する帰属意識を強め、より前向きな姿勢で仕事に取り組むようになります。さらに、通勤時間が短縮される立地であれば、従業員のストレスも軽減されます。
企業のブランディング強化
新しいオフィスは、企業のブランドイメージ向上にも寄与します。訪問者やビジネスパートナーに対して洗練された印象を与えるだけでなく、求職者にとっても魅力的な職場環境としてアピールできます。特に、オフィスデザインに企業理念や価値観を反映させることで、ブランドの一貫性を強調できます。
コミュニケーションの活性化
オープンスペースやカジュアルなミーティングスペースの導入により、従業員同士のコミュニケーションが自然と活発になります。これにより、チームの連携が強化され、組織全体のパフォーマンス向上にもつながります。
安全性の向上
地震や災害への耐性が強化された新しいビルに移転することで、従業員の安全を確保できます。さらに、事業継続計画(BCP)の観点からも、移転先の選定時にはビルの防災対策や周辺環境の確認が重要です。
オフィス移転のデメリット
手間と時間がかかる
オフィス移転は一大プロジェクトであり、準備には多くの時間と手間がかかります。新オフィスの選定、レイアウトの設計、引越し準備など、多くのステップを経る必要があります。また、業務を止めることなく移転を進めるため、担当者には負担がかかることが少なくありません。
従業員の不満の可能性
全ての従業員が新しいオフィスに満足するわけではありません。通勤時間が増加したり、周辺の環境が現在よりも不便になったりする場合、従業員のモチベーションが低下する可能性があります。こうした不満を事前に把握し、適切に対応することが大切です。
オフィス移転を成功させるポイント
移転の目的を明確にする
オフィス移転を成功させるためには、まず「移転の目的」を明確にすることが重要です。コスト減額やスペースの有効活用、働き方改革を目的とする場合、その目的に沿ったビル選定やレイアウト設計が求められます。移転の目的が明確であれば、移転後のオフィスが企業の成長や従業員の満足度向上に直結します。
事前の計画を入念に行う
オフィス移転は数か月から1年かけて進行するプロジェクトです。スケジュールを逆算し、各段階で必要なタスクを整理しておくことが、スムーズな進行に不可欠です。移転プロセス全体を管理するためのチェックリストやプロジェクト管理ツールの活用も有効です。
従業員の意見を取り入れる
オフィス移転はトップダウンで進めるだけでなく、従業員の意見を積極的に取り入れることが成功の秘訣です。アンケートやワークショップを通じて、従業員が理想とする働き方やオフィス環境を把握し、移転後のオフィス設計に反映させることで、従業員の納得感を高めることができます。
専門家への相談
オフィス移転には専門知識が必要な場面も多くあります。内装設計やITインフラ整備、契約関連など、専門家のサポートを受けることで、スムーズかつ効果的に移転を進めることができます。移転業務と通常業務を並行して進める担当者にとって、こうしたサポートは大きな助けとなるでしょう。
オフィス移転には多くのメリットがありますが、適切な準備と計画がなければデメリットも大きくなります。移転の成功には、従業員の意見を取り入れ、明確な目的に基づいた戦略的な計画が必要です。専門家のサポートを活用しながら、スムーズかつ効果的に移転を進めることで、企業全体の成長を支えるオフィス環境を実現することができます。
萩原 大巳 (Hiromi Hagiwara)
一般社団法人RCAA協会 理事
オフィス移転アドバイザーとしての実績は、600社を超える。原状回復・B工事の問題点を日経セミナーで講演をする。日々、オフィス・店舗統廃合の相談を受けている。オフィス移転業界では、「ミスター原状回復」と呼ばれている。 |