外食産業のカリスマ経営者ワタミグループを率いる渡邊美樹CEOのスローガンは、あまりにも有名である。
「地球上で一番たくさんのありがとうを集めるグループになろう」
ワタミの経営決断はスピードと実行力において、競合他社の模範とされる会社である。
「ワタミ」と「マクドナルド」の財務比較
下記、図表1は「ワタミ」、図表2は「マクドナルド」の財務状況である。
図表1「ワタミ」は、2020年3月期決算において、2,945百万円の大幅赤字、さらに2021年3月期決算は、11,586百万円の空前の赤字である。
図表1「ワタミ」
図表2「マクドナルド」
外食産業では、自己資本比率が10%を下回ると危険とされている。売上高も2021年3月期前年対比-33.1%の巨額赤字の非常事態である。このような状況下、PL、BS(※1)経営から脱却しキャッシュフロー経営へと舵を切った。とにかくキャッシュであり、生き残らなければならない。
生き残りから、勝ち生き残りのため、2019年12月末7,009店舗 501店舗、2020年12月末6,136店舗 458店舗、2021年12月末には、さらに数百店舗の閉鎖?が予想される。
※店舗数を訂正いたしました。大変申し訳ありませんでした。
このような撤退戦を超特急で実践できるのは、なぜだろう?
非常事態下の経営者は、調整型の経営者ではあまりにも時間と労力を費やし、再建は不可能である。独断即決、朝令暮改型リーダーの決断で命運を分ける。撤退戦の骨子は、シンプル不採算の閉鎖であり、また現状を分析し、FL+レント(R)を70%におさえるというシンプルな数字である。
閉鎖と新事業態への挑戦と分けることである。これを断固たる決意で実行する。
やることはシンプル、それは「賃貸借契約の見直し」である。
賃貸借契約の見直しと可視化
- 敷金、保証金は、いくら預託したか?
- 家賃はいくらか?
- 原状回復の費用はいくらか?
- 業態変化の新店舗改修費はいくらか?(設備投資)
この1~4を早急に見直し、採算をとるためには2の家賃を30%値下げ要求である。
借地借家法第32条の3に記載されている家賃の増減額交渉権の履行であり、自社スタッフは、成長戦略(事業再構築等)に集中させる。
撤退戦は、優秀な自社責任者管理のもと、アウトソーシングを活用し、すべてを可視化することである。
採算が見込めない店舗は、即閉鎖。賃貸借契約書を見直し、原状回復義務を履行する。
「原状回復費用はいくら?」
「スケルトンはどこまでやるのか?(工事範囲)」
「B工事はいくら?指定業者はあるのか?工事範囲は?」
「C工事の範囲は?またいくらで工事できるの?」
これを可視化し、速やかに実行する。この際、敷金がいついくら返還されるかを明確にし、キャッシュフロー経営で把握する。これがPLからの脱却である。
この結果、ワタミは政策金融公庫より120億円を調達、劣後ローンとした。メインバンク、サブバンクより100億以上は調達したと思われる。まさに現金、キャッシュフロー経営である。
私の予想であるが、ワタミは2021年6月現在200億円を超えるキャッシュが積みあがっており、巨額赤字といえども盤石な財務体質となっている。
この撤退戦と同時平行で強力にすすめるのが事業再構築である。これは次ページ「コロナ禍の外食産業とDX」で解説します。
(※1)PL:損益計算書、BS:賃借対照表
【参考】
PRESIDENT Online 2021/06/15 11:00(https://president.jp/articles/-/46919)
「外食産業の真実爆弾ノウハウハのマクドナルド、崖っぷちワタミの”笑えない格差”はどこでついたか同じコロナ禍で明暗くっきりの数字」
【参考文献】
ワタミ株式会社 代表取締役兼グループCEO 渡邊美樹
「コロナの明日へ」アーチブメント出版 2020年9月4日
萩原 大巳 (Hiromi Hagiwara)
一般社団法人RCAA協会 理事長
オフィス移転アドバイザーとしての実績は、600社を超える。原状回復・B工事の問題点を日経セミナーで講演をする。日々、オフィス・店舗統廃合の相談を受けている。オフィス移転業界では、「ミスター原状回復」と呼ばれている。 |