セキュリティは経営者の義務!オフィス入居時の落とし穴と原状回復の注意点

2024.01.25

セキュリティは経営者の義務!オフィス入居時の落とし穴と原状回復の注意点

 

セキュリティ機器取り付けで50万円の新規ドア交換請求、適正なの?

 

オフィス入居時には、リアル(物理的セキュリティ)とネット(デジタルセキュリティ)の両方のセキュリティをしっかりと確保することが経営者の義務です。しかし、セキュリティを強化するために行った工事が、退去時に原状回復でトラブルになることもあります。ビルオーナーが設置したセキュリティ機器やパッシブセンサーなどは、どのように扱うべきなのでしょうか?この記事では、オフィス入居時のセキュリティに関する落とし穴と、原状回復・B工事で注意すべき点を、実例を交えて解説します。

 

実例

テナントがビルに入居する際、ビル側からの事前許可を得て、セキュリティ強化のために入口ドアの一部に小さな穴を開けてセキュリティ錠を設置しました。しかし、数年後に退去する時に提出された原状回復工事の見積もりには、「穴が開けられた扉の新規交換に50万円が必要」という項目が記載されていました。

 

<問題点>

  1. 賃貸借契約書に「穴を空けた扉は原状回復時に新規交換する」という記載がなかったにも関わらず、退去時に扉の新規交換費用が請求されている。
  2. 穴を空けたことによる扉の補修は必要だが、小さな穴であれば扉の完全な交換は必要ないのではないかという疑問。
  3. テナントはドアに穴を開ける許可をビル側から得ていたが、その際に原状回復時の扉の交換に関する説明や費用の提示があったかどうかが不明。

 

ドアの交換費用を請求された場合

賃貸物件に入居するとき、扉に錠をつけるために穴を開けることがありますが、退去時に扉の交換費用を請求されることもあります。上記の実例のような場合、どのように対処すればいいか、次の三つのポイントを参考にしてください。

 

 1. 契約書の内容を確認する

扉に穴を開けた場合の原状回復の方法や費用の負担は、契約書に記載されていることがあります。契約書に従わなければならない場合もあれば、扉の交換費用を請求される根拠がない場合もあります。

 

 2. 補修方法や費用の相場を調べる

扉に小さな穴が開いているだけであれば、穴を塞ぐことだけで原状回復できます。補修費用は数千円から数万円程度です。扉自体を新規交換する場合は、50万円という金額は高すぎます。補修方法や費用の相場を根拠にして交渉できます。

 

3. 許可を得た際の説明内容を確認する

扉に穴を開ける許可を得た際の説明内容が重要です。ビル側から扉自体を新規交換する必要があり、その費用は50万円程かかるという説明があった場合は、その内容に同意したことになります。そのような説明がなかった場合は、ビル側は不十分な情報提供をしたことになります。ビル側の過失や不当性を主張できます。

 

 

ドアの交換費用を請求された場合

 

セキュリティ以外にも賃貸オフィスの退去時に起こりやすいトラブルがあります。その具体例と対処法についてもご紹介します。

壁紙や床の傷を指摘された場合

オフィスの壁紙や床に傷がついていると、退去時に修繕費用を請求されます。(特別損耗)しかし、傷は通常損耗によるものであれば、敷金から差し引くことはできません。これは原状回復義務の逸脱です。テナントは入居時と同じ状態に戻す必要がありますが、経年劣化や消耗は原則として含まれません。(原状回復定義)

このような場合も、ビル側と交渉することが大切です。傷の程度や原因について説明し、修繕費用の免除や減額を求めます。必要であれば、第三者機関に鑑定してもらうこともできます。

 

退去日の変更を拒否された場合(定期建物賃貸借契約)

定期建物賃貸借契約の契約期間が終了する前にオフィスを退去したい場合、ビル側に事前に申し出る必要があります。しかし、ビル側は契約期間内であれば退去日の変更を拒否することができます。これは契約不履行とみなされるからです。定期建物賃貸借契約の場合は、ビル側の同意が絶対条件です。同意を得るためには、退去理由や日程を明確に伝えることが重要です。また、残りの家賃や違約金などの支払い条件についても話し合います。ビル側が同意しない場合は、契約期間まで家賃を支払うか、他のテナントを探すなどの対策を考える必要があります。

 

まとめ

賃貸オフィスの退去時にトラブルや高額な費用を避けるためには、入居時や契約時にしっかり確認をすることが大切です。また、トラブルが起きた場合は、ビル側と交渉することが必要です。証拠や専門家の意見を活用することも有効です。最終的には裁判所に提訴することもできますが、時間や費用がかかることを考慮してください。

 

執筆者ワンポイントアドバイス

テナントの原状回復義務について、改正民法第621条と第611条の任意規定を参考に説明します。

出入り口ドアに穴を開けセキュリティ子機を取り付けた場合、穴をパテで塞ぎ塗装すれば原状回復義務は果たされます。新規交換は必要ありません。

ビルオーナー側のセキュリティはパッシブセンサーと監視カメラを移設した場合、元の位置に戻す義務があります。これは「B工事」と呼ばれ、費用はテナント負担です。ただし、新規再配線やデータ変更についてはオーナー負担と考えられます。賃貸契約書や原状回復特約を確認してください。

専門性が高い問題なので、原状回復・B工事の査定員に相談することをおすすめします。

 

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執筆者紹介

萩原大巳

萩原 大巳 (Hiromi Hagiwara)

一般社団法人RCAA協会 理事
【協会会員】株式会社スリーエー・コーポレーション 代表取締役CEO

  • ワークプレイスストラテジスト
  • ファシリティプロジェクトマネージャー

オフィス移転アドバイザーとしての実績は、600社を超える。原状回復・B工事の問題点を日経セミナーで講演をする。日々、オフィス・店舗統廃合の相談を受けている。オフィス移転業界では、「ミスター原状回復」と呼ばれている。