原状回復義務でわかる日本とアメリカの賃貸文化の違い

2023.10.21

原状回復義務でわかるアメリカと日本の賃貸文化の違い

 

アメリカのオフィスビル賃貸に異変

カリフォルニア州ではオフィスの空室率が3割を超え、NYも25%を超えています。

コロナ禍を経験した人類はテレワークを浸透させ、働き方をサーベイした結果、オフィスの面積を縮小しました。今やオフィスは伽藍堂です。これはロンドンやEU、中国、日本でも同じ傾向です。オフィス不動産特定目的会社は次々と破綻しています。サブリースの雄であるWeWorkも巨額の赤字を垂れ流し続けています。

ビルオーナー自身がフレキシブルオフィスを運営し、テナントも自身でコワーキングスペースやサービスオフィスを運営しています。異業種からの参入は不動産業界を激変させました。

原状回復義務も画一的ではなく、DIYでカスタマイズするアメリカの賃貸事情を解説します。

 

日本の賃貸契約と原状回復義務

日本では、借り手は物件を退去する際に、借りた時の状態に戻す義務があります。これは法律で定められており、物件を使用する際に発生した損傷や汚れを修復する必要があります。ただし、物件の経年劣化や自然災害などで発生した損傷は除かれます。

原状回復義務は、借り手にとっては大きな負担となることがあります。壁紙や床材を変えたり、エアコンやLED照明器具に変更したりした場合、退去時に元に戻す必要があります。これらの費用は敷金から差し引かれることが多く、敷金が返還されないケースが多いです。

 

 

アメリカの賃貸契約と原状回復義務

一方、アメリカでは原状回復義務が厳密に設定されていないケースも多いです。アメリカでは、「定期建物賃貸借契約」という形式が主流であり、更新がありません。つまり、借り手は契約期間が終了するまでに物件を退去しなければならず、その際に物件の状態をどうするかは貸主と借主で話し合うことになります。

アメリカでは、原状回復やB工事(内装工事)には明確な決まりがなく、貸主と借主が専門家と協議を行い、賃貸条件やデザイン設計などを決めていきます。壁紙や床材を変えたり、エアコンや照明器具を取り付けたりした場合、退去時に元に戻す必要はなく、そのまま残しても良い場合もあります。

 

アメリカの賃貸契約と原状回復義務

日本とアメリカの賃貸契約の違いの背景

では、なぜ日本とアメリカでは賃貸契約における原状回復義務の考え方が大きく異なるのでしょうか。これには、DIY文化や不動産への考え方の違い、そしてマーケットの強さが影響しています。

日本では新築物件への信仰が根強く、「他人が住んだり他社が使用した形跡を好まない」傾向があります。そのため、物件を借りる際には新品同様の状態を求めることが多く、物件を貸す際には原状回復義務を厳しく設定することが多いです。また、日本ではDIY文化が一般的ではなく、物件を自分好みに変えることに抵抗感がある人も多いです。

一方、アメリカではDIY文化が一般的であり、物件の変化に寛容な傾向があります。そのため、物件を借りる際には自分好みに変えることができることを求めることが多く、物件を貸す際には原状回復義務を緩やかに設定することが多いです。また、アメリカでは不動産への考え方も異なり、物件は投資対象として見られることが多く、借主のニーズに合わせて改装することは一般的です。

さらに、日本とアメリカでは賃貸マーケットの強さも違います。日本では供給過剰や人口減少などで賃貸マーケットが低迷しており、借主は物件選びに余裕があります。一方、アメリカでは供給不足や人口増加などで賃貸マーケットは長期的にみると常に成長しています。

 

まとめ

日本とアメリカでは、賃貸契約における「原状回復」の考え方が大きく異なります。これは、DIY文化や不動産への考え方の違い、そしてマーケットの強さが影響しています。日本では原状回復義務が厳しく設定されており、借り手は物件を退去する際に大きな費用をかける必要があります。一方、アメリカでは原状回復義務が緩やかに設定されており、借り手は物件を自分好みに変えることができます。このような違いを理解することで、日本とアメリカでの賃貸契約におけるトラブルを防ぐことができます。

日本の賃貸契約は画一的で柔軟性(フレキシブル)に欠けています。敷金は家賃の12カ月分が一般的で、退去時の原状回復はビルの指定業者に依頼しなければなりません。

また、移転先では電気・空調・防災などの設備の移設増設・除去に関するB工事も指定業者に任せる必要があります。

このような状況は敷金返還問題や転貸借禁止(サブリース禁止)、原状回復・B工事費高騰問題などのトラブルを引き起こしています。

民法の改正により、敷金・預託金や原状回復義務の目的が定義され明文化されましたが、2020年4月から施行されてもトラブルは減っていません。

日本は国際的なスタンダードに合わせた賃貸契約を導入すべきです。柔軟に対応できるソフトローの法治国家を目指すべきです。

私達と共に、働き方をサーベイし、「行きたくなる・集いたくなる」オフィスを一緒に創りましょう。

敷金返還、原状回復・B工事、家賃の見直し、賃貸借更新条件見直し、オフィスや店舗の賃貸契約の無料相談を承ります。

 

執筆者紹介

萩原大巳

萩原 大巳 (Hiromi Hagiwara)

一般社団法人RCAA協会 理事
【協会会員】株式会社スリーエー・コーポレーション 代表取締役CEO

  • ワークプレイスストラテジスト
  • ファシリティプロジェクトマネージャー

オフィス移転アドバイザーとしての実績は、600社を超える。原状回復・B工事の問題点を日経セミナーで講演をする。日々、オフィス・店舗統廃合の相談を受けている。オフィス移転業界では、「ミスター原状回復」と呼ばれている。

 

お薦め動画・コラム