リーマン・ショック再来? 米国「商業不動産ローンデフォルト」市場規模2,600兆円

2023.06.16

リーマン・ショック再来? 米国「商業不動産ローンデフォルト」市場規模2,600兆円

 

2023年3月、アメリカのシリコンバレー銀行とシグネチャー銀行、ファースト・リパーク・バンクが相次いで破綻しました。破綻前から、商業不動産の基本的な価値が低下し、そのローンの不良債権化のリスクが特に中小銀行に影響を及ぼす可能性が注目されていました。最近では、特にオフィスビルを担保とする商業不動産ローンのデフォルトが増加し、リスクが現実化しています。今回は、これらの不動産とローンのリスクが今後どのように発展するかを探ります。

 

米国商業不動産:ローンデフォルト増加の背後にある事情

最近、ブルックフィールド・アセット・マネジメントは、ロサンゼルス市内ダウンタウンにある52階建てのオフィスタワーである777 South Figueroa St.と、もう1つのタワー2棟の2つの不動産物件を担保としたローンがデフォルトとなり、7,500万ドル(約980億円)が失われた。
Pimcoという資産運用会社も、最近報じられたところによると、ツイッター社が入居するニューヨークとサンフランシスコのビルを含むオフィスビルのポートフォリオを担保とするモーゲージ・ローンがデフォルトとなったという。 (Wall Street Journal 2023年3月28日)
報道によると、不動産投資会社であるRelated Fund ManagementとBentallGreenOakは、2つのオフィスビルがロングアイランドシティにある抵当ローンをデフォルトさせ、レンダーに鍵を返却することを決定したとされています。(BISNOW、2023年2月9日)

 

商業不動産ローンのリスク顕在化:現状と将来の展望

商業不動産ローンのデフォルトは、上場REITにも影響することがあります。Columbia Property Trustは上場REITですが、同社が所有するニューヨーク、ボストン、サンフランシスコ、ジャージーシティにある7棟のビルに裏付けられた17億ドル(約2,210億円)のローンがデフォルトになったことが2023年2月23日のBISNOWで報じられました。(2021年に39億ドル<約5,070億円>でPimcoに買収された)

2022年3月からFRBがわずか1年で4.75%も利上げをしたため、ローンの変動金利は増加し、借入金の返済負担が増えて、借り換えは難しいことが予想されました。

7棟のビルの担保価値は、2021年には約2,950億円でありましたが、最近の評価ではそれを大幅に下回ると予測されています。

言い換えると、商業不動産の価値は金利が上がり、キャッシュフローが低下しているため、下落しています。このことが商業不動産ローンの不良債権化のリスクを高めています。

 

オフィス不動産の基本的価値低下:主な原因と影響

商業不動産の値段は低下傾向にあるが、すべての不動産の種類が同じ速度で下落しているわけではありません。

賃貸の住宅価格が下がっている一方で、インフレによる利益もあります。したがって、立地によっては、家賃の引き上げが可能です。

しかし、リモートワークやハイブリッドワークが浸透するにつれて、オフィスの需要は減少しています。さらに、景気の先行きが不透明な状況が続いているため、キャッシュフローの減少が底を打つ時期が予測しにくく、資産価値の下落率は他の不動産に比べて高くなる傾向があります。

不動産調査会社のGreen Streetによる商業不動産価格指数(The Green Street Commercial Property Price Index®)によると、2023年3月の指数は前年同月比で15%低下しており、商業不動産の中でもオフィスの下落率が最も大きく、質の良い物件でさえ、同25%下落したと報告されています。(Green Street:2023年4月6日)

要するに、商業不動産において現れる主要なリスク要因は、ワークスタイルが激変し、リモートワークやハイブリッドワーク導入により需要が減ったということです。

 

オフィス不動産の基本的価値低下:主な原因と影響

上昇するオフィスの空室率と賃料の下落:その背景と影響

クッシュマン&ウェイクフィールドの不動産サービス会社による調査によると、2023年の第1四半期(1~3月)の全米平均オフィススペース空き率(サブリース込み)は18.6%で、2022年の第4四半期(10~12月)の18.0%から上昇し、これで連続で上昇していることがわかりました。

ヒューストン、ロサンゼルス、ミネアポリス、フェニックス、サンフランシスコの空室率は約25%まで増加し、シカゴ、アトランタ、ニューヨーク、ダラス、シアトルなどの空室率も20%以上になっています。

ただし、アメリカ東南部の州では、マイアミのように空き家が少しずつ減ってきている都市もあります。また、高級なビルであっても、特定の都市に限らず、空き室が減少している傾向が見られます。

米国全体の第1四半期の平均募集賃料はドル37.03/平方フィートで、前四半期のドル37.02/平方フィートとほぼ同じ水準にありました。ただし、これは表面賃料に含まれるサブリースを含めた数字に過ぎません。

空き部屋が増加する経済状況の中、ビルオーナーはテナント獲得のために、一定期間の無料契約であるフリーレントの設定や、通常テナントに負担されるべき内装工事費の一部を負担しています。

そのため、アメリカではコンセッションとして知られるインセンティブを含む実質賃金がまだ低下していると予想されます。

ニューヨークのミッドタウンには、新しく建てられた One Vanderbilt や Hudson Yards の上層階には、眺望が素晴らしく非常に高い賃料の成約例があります。ただし、それは好立地かつ新築でアメニティが完備された、一部の上質なAクラスのビルに限られます。

 

オフィス需要の低迷とリモートワーク:だが最近の出社増加の動向

アメリカ国内のたくさんのオフィスが現在苦境に陥っている背景には、新型コロナウイルスの蔓延により普及したリモートワーク(自宅での勤務やシェアオフィスでの勤務)や、ハイブリッドワーク(自宅での勤務とオフィスへの出社の組み合わせ)の働き方の変化が関係しています。

現在、コロナウイルスの影響が収まってきた日本では、以前の勤務形態に戻す企業や、コロナ禍時と比較してオフィスに出社する頻度を増やす企業が増加しています。

米国では、COVID-19の状況が改善しているにもかかわらず、多くの企業がパンデミックの間に開始したリモートワークとハイブリッドワークを実装し続けています。

もしリモートワークやハイブリッドワークを続けるなら、会社はもちろんオフィスの総面積を減らさなければなりません。ワークスタイルの変化によって、会社のオフィススペースが縮小することは免れませんが、特に築年数の古いオフィスビルにとっては暗い未来が待ち受けています。

アメリカでも最近は、リモートワークを導入していない企業が徐々に増加しています。アメリカ労働統計局の調査によると、2022年8〜9月には、リモートワークをまったく行っていない、またはほとんど行っていない企業の割合が72.5%に上昇し、2021年7〜9月の60.1%から増加しています。(U.S. Bureau of Labor Statistics 2023年3月22日/米国中小企業統計)

 

 

商業不動産ローン:中堅以下の銀行、MBS、生保が出資の主力

アメリカ抵当銀行協会(MBA)によると、全米の商業不動産ローンの残高は2022年の第4四半期で4兆5,322億ドル(約590兆円)になる見込みです。この残高の38.6%は銀行が提供しており、政府系金融機関が組成するMBS(資産担保証券)が21%、生保が14.7%を占めています(MBA Quarterly Databook Q4 2022)。

Moody’sの格付けによると、アメリカの銀行4,715行のうち、38.6%は以下の通りに分解されます。資産規模1,600憶ドル(約20兆8,000憶円)以上の大手25行は12.1%、地方銀行の中堅クラスである資産規模100憶ドル(約1兆3,000憶円)から1,600憶ドル(約20兆8,000憶円)の135行は13.8%、コミュニティ銀行である資産規模10憶ドル(約1,300憶円)から100憶ドル(約1兆3,000憶円)の829行は9.6%、そして、小規模な地方銀行である資産規模10憶ドル(約1,300憶円)以下の3,726行は3.2%となります。(Moody’s ANALYTICS 2023年4月4日)

注目すべきは、各規模のカテゴリーにおける商業不動産ローンの総資産に占める割合です。 大手銀行の25行は4.3%で、中堅地方銀行の135行は16.5%、コミュニティ銀行の829行は24.3%、また、資産規模が1億ドル(約130億円)から10億ドル(約1,300億円)である小規模地方銀行の2,965行は18.3%、そして、資産規模が1億ドル以下 (約130億円)である小規模地方銀行の761行は7.2%となっています。これにより、中堅以下の地方銀行において、商業不動産ローンの存在感が大きいことがわかります。

 

商業不動産ローンの借り換え:簡単ではない理由と対策

経済状況が不安定でインフレーションが進む中、商業不動産ローンの返済期限が続々と到来します。

ストラクチャード・ファイナンスの調査会社のTreppによれば、4,480億ドル(約58兆2,400憶円)の商業不動産ローンが今年償還期限を迎えます。そして、そのうち約60%にあたる2,700憶ドル(約35兆1,000億円)が銀行からの融資であり、さらにそのうちの約30%にあたる800憶ドル(約10兆4,000億円)がオフィスを担保とするローンなのです。

 

2023年から2027年の間、合計で2兆5,600億ドル(約332兆8,000億円)の償還期限が訪れる予定です(Trepp、2023年3月27日)。金融引き締めと金利上昇の状況下でのリファイナンスは、より高いコストのため、交渉は極めて困難になります。

過去に見られた景気後退期と同様に、銀行や生保等は商業用不動産への融資を減らそうとするため、交渉がより難しくなる可能性が高いです。

 

商業不動産ローンのデフォルト増加は避けられない?未来予測と対策

リモートワークやハイブリッドワークが普及する中、ITや金融業界では人員削減が進んでおり、米国の主要都市でもオフィスの空室率が高くなっています。その結果、オフィスの価値が低下し、商業不動産ローンの債務不履行も増加します。

もしデフォルト件数が増加すると、銀行の資金的な状況が悪化する恐れがあります。特に商業不動産ローンの残高が高い銀行は、業務上の問題で経営危機に陥る危険性があるでしょう。

デフォルトが増えると、小規模な銀行など中堅金融機関が経営危機に陥る可能性がある。アメリカの商業不動産ローン市場が被害を受けるのは避けられないと予想されています。

 

商業不動産ローンのデフォルト増加は避けられない?未来予測と対策

リスク低減の可能性:商業不動産ローンの対策と要因

金融政策が引き締められ、金利が高騰しているにもかかわらず、リスクを軽減する要因があることがわかっています。第一に、マイアミなどの都市や一部のAクラスビルでは、オフィス空室率が低下しており、リモートワークからオフィス出社に移行する企業が徐々に増えているということです。

2つ目に、オフィスを含む商業用不動産のキャップレートを見ると、米10年国債利回りとのスプレッドは平均300ベーシスポイント程度で維持されています。したがって、最近の金利上昇の一部はこの厚いスプレッドによって吸収され、不動産価格の下落幅の拡大が抑制されることが期待されます。

3つ目には、リーマン・ショック以降、銀行の資本は強化され、商業用不動産向けの融資条件も厳しくなっているということです。

特にLTV(ローン・トゥ・バリュー:貸し手として貸し付けを行う物件価値に対する借り手の借入限度額の割合)は、リーマン・ショック以前よりもかなり低下しています。銀行が持つ商業不動産ローンのLTVは、2000年代初頭には70%以上でしたが、現在は約60%前後になっています(Moody’s Analytics 2023年4月4日)。低いLTVは、不動産価値の減少時に銀行の評価損傷引当金を軽減する役割を果たします。

 

リーマン・ショック再来の可能性は低い:商業不動産ローンのリスク評価

いくつかの小規模な銀行が経営危機に陥った場合、システミック・リスクに拡大することを防ぐことができるかどうかは、預金流出を最小限に抑える方法次第です。そのため、行政の役割は重要と考えられます。

報道によると、シリコンバレー銀行とシグネチャー銀行の破たんが発生したことを受けて、財務省と連邦準備制度(Fed)の政策担当者がホワイトハウスに集まり、商業不動産市場の潜在リスクについて検証したことが明らかになっています。この市場は約20兆ドル(2,600兆円)に上ります。このことから、セーフティネットを導入する可能性があることが示唆されています。(2023年3月27日・ワシントンポスト)

これらいくつかの要素を考えると、商業不動産ローン市場には今後痛みを被りますが、リーマン・ショック以降のシステミック・リスクが再び起こる可能性は現在限定的だと考えられます。

 

(※1$=130円換算)

 

執筆者 萩原大巳のワンポイントアドバイス

世界経済長期低迷予測、米中二代超大国の最新テクノロジー・イデオロギー・安全保障対決、その対決の真ん中にある我国。単純にアメリカ追随で済むことではありません。中華圏、インド太平洋の成長を取り込む政策が必要とされています。

マスコミは東証の「株価が3万円を超えた」「ゴージャスマンション即日完売」と報道しています。

しかし、株も不動産も会社も外資ファンドによる投資です。間接支配構造になりつつあるのです。グローバル経済は国境も時空も超えてきます。

世界の投資家はドルが基準通貨です。2011年は1$=88円、2023年6月は140円です。これは日本の株も不動産も会社も人材も4割安いということを意味します。

「安い日本・買われる日本」ということです。残念ですが、正確な未来予測はできません。変化対応力が明日の命運を分けます。

働き方をデザインしてフレキシブルなオフィスを検討して下さい。

その為にはハードロー(大陸法)からソフトロー(米英法)に法整備することが大切です。理由は、ソフトローであれば変化対応が容易だからです。ワークプレイスも、フレキシブルでアジアの成長を取り込み、世界のグローバルビックテックを日本に誘致する政策が求められています。

ワークプレイス見直しの最大の障壁が移転元の原状回復高騰問題、敷金返還問題、移転先の指定業者によるB工事高騰問題です。

無料査定、無料相談承ります。

 

萩原大巳

萩原 大巳 (Hiromi Hagiwara)

一般社団法人RCAA協会 理事
【協会会員】株式会社スリーエー・コーポレーション 代表取締役CEO

  • ワークプレイスストラテジスト
  • ファシリティプロジェクトマネージャー

オフィス移転アドバイザーとしての実績は、600社を超える。原状回復・B工事の問題点を日経セミナーで講演をする。日々、オフィス・店舗統廃合の相談を受けている。オフィス移転業界では、「ミスター原状回復」と呼ばれている。

 

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