日本の不動産は誰のものになるのか ―外国人投資の構造変化と、日本が向き合うべき課題

2026.02.03

外国人取得は本当に増えているのかを解説する日本の不動産市場のコラム

 

近年、日本の分譲マンション市場では、外国人取得が注目される場面が増えています。ただし最新の調査によれば、外国人の取得割合は都心部で一定程度確認されるものの、市場全体としては“急増”と断定できるほどの水準ではなく、その実態を正確に把握する統計も限られています。短期転売や賃貸目的の取得も想像されるほど多くはなく、実需以外の動きが市場を大きく押し上げている状況とは言えません。しかし一方で、エリアによっては外国人取得が増えている可能性が示唆されており、全体像がつかみにくいまま変化が進んでいることは確かです。こうした「市場全体の影響は限定的だが、局所的には変化が起きている」という二重構造は、日本が今後向き合うべき課題を浮き彫りにしています。

 

1. いま、日本の不動産市場で何が起きているのか

近年、日本の不動産市場では「外国人がマンションを買っている」という話題が広がり、注目を集めています。こうした感覚的な変化は、今では統計上も明確に確認されるようになりました。

東京23区の外国人取得比率は上昇し、特に都心6区(千代田・中央・港・新宿・文京・渋谷)では前期と比べて高い水準が確認されています。国別に見ると、従来中心的な存在とみなされてきた中国に比べ、台湾の取得件数が相対的に高い水準となっている点が特徴です。

さらに、都心部を中心に短期売買が見られるケースや、重要施設周辺での取得が増えるなど、市場の変化は一方向ではなく、多面的に進んでいます。こうした動きは一過性のブームではなく、今後も続く可能性のある変化として捉える必要があります。

 

2. 外国人取得の最新データから見える市場の変化

日本の不動産市場では、外国人取得をめぐって「量」と「質」の両面で変化が進んでいます。

 

量の変化:取得割合の上昇と取引の活発化

東京23区では外国人による取得割合が上昇し、都心6区ではさらに高い水準が確認されています。加えて、比較的短期間での売買も増えており、こうした動きは、居住目的だけでは説明しにくく、市場の取引環境そのものが変化していることを示しています。

地域別の購入動向のグラフ

質の変化:国別構成の変化と台湾の比重上昇

国別構成を見ると、外国人取得の内訳にも明確な変化が見られます。従来、外国人取得の中心とみなされることが多かった中国に比べ、近年は台湾の取得件数が相対的に高い水準となっています。このほか、重要施設周辺の土地取得が増加するなど、取得対象やエリアの面でも変化が確認されています。

 

3. 台湾>中国へと市場構造が変わった理由

では、なぜ日本の不動産市場では、台湾の取得が目立つ一方、中国の存在感が相対的に低下しているのでしょうか。

東京23区国地域別取得数内訳円グラフ

3-1. 台湾の取得が増えている背景

台湾からの取得が増加している背景には、主に三つの要因が挙げられます。

第一に、台湾を取り巻く地政学リスクへの備えです。緊張感が高まる中、資産の一部を国外に分散しようとする動きが強まり、日本は地理的近さと法制度の安定性から、資産保全先として選好されやすい状況にあります。

第二に、台湾国内の住宅価格高騰と為替環境です。台湾の主要都市では住宅価格の上昇が続く一方、円安の進行により、日本の不動産が相対的に割安に見える局面が生じています。

第三に、取引の実務面における容易さです。台湾の購入者は現金決済を選択するケースが多く、ローン審査等を必要としない取引が、市場への参入を後押ししています。

3-2. 中国の取得が減少している背景

一方、中国からの取得が減少している背景には、構造的な制約があります。
最大の要因は、外貨規制の影響です。資本流出を抑制するための規制が強化され、海外不動産の取得に必要な資金移動が難しくなっています。
また、中国国内の不動産市場の停滞により、投資家の行動も変化しています。新規の海外取得よりも、既存資産の売却や現金化を優先する動きが広がり、結果として日本の不動産市場においては、中国からの新規取得が目立ちにくくなり、相対的に存在感が低下していると考えられます。

このように、現在の取得件数の差は、単なる資金量の違いではなく、各国・地域のリスク認識や投資行動の違いが、日本の不動産市場に反映された結果といえます。

 

4.なぜ日本は外国人投資を呼び込みやすいのか

外国人投資が日本の不動産市場に流入しやすい背景には、下図のような制度的要因が重なって存在しています。

 

日本の不動産市場が外国人投資を呼び込みやすい3つの制度要因

4-1. 所有者情報が把握しにくいことの意味

所有者情報を十分に把握できない状況は、市場動向の検証や政策効果の評価を難しくし、後追い的な対応になりやすい構造を生みます。

4-2. 規制の少なさが市場にもたらす影響

取得に関する規制が限定的であることは、日本市場を海外資金にとって参入しやすい投資先として位置づける要因となっています。

4-3. 短期取引・重要地域への対応が示す課題

短期売買や重要地域に関する管理が限定的である場合、市場の安定性や公共性との関係が見えにくくなります。とくに居住を前提としない取得が増えた場合、価格形成や地域管理への影響を事前に把握しづらいという課題が生じます。

 

5. 外国人投資が市場と生活者にもたらす影響

こうした流れは、不動産市場にとどまらず、私たちの生活にも影響を及ぼします。

5-1. 価格・家賃の上昇圧力

都心部を中心に価格が上がりやすくなり、国内の実需層が取得しづらくなったり、より小さな物件へ移行せざるを得ない状況が生まれています。賃貸市場でも家賃が下がりにくくなり、生活コストへの影響が広がっています。

5-2. 市場の不安定化

取引が活発化する一方で、価格変動が大きくなり、在庫が薄くなる傾向も見られます。住宅に限らず、オフィスやホテルなどの分野でも、資金の動きによって市場環境が変わりやすくなります。その結果、事業者や実需層にとって、将来を見通しにくい状況が生じます。

 

短期売買の状況を表したグラフ

5-3. 安全保障・インフラ管理の課題

水源地や基地周辺、離島などは、単なる不動産取引ではなく、公共性や安全保障とも深く関わります。こうした地域では、より慎重な管理が求められます。

これらの影響が広がる中で、日本としては、市場の健全性と安全保障を両立させるための対応が避けられません。

 

重要施設周辺における土地取得の状況

6. 日本が検討すべき対応の方向性

不動産市場の国際化が進むなか、日本に求められているのは「開放か規制か」という単純な二択ではありません。市場の開放性を維持しつつ、透明性と安定性を高めるための制度調整を、現実的な範囲で段階的に進めていく視点が重要です。

6-1. 所有者情報の見える化

第一に検討すべきは、所有者情報の把握を前提とした市場の可視化です。

誰が、どこに、どのような不動産を保有しているのかを把握できなければ、市場動向の分析や政策効果の検証は困難です。国籍や居住地、実質的な支配関係といった情報を整理し、断片的な把握にとどまらない仕組みを構築することは、市場の透明性を高めるための基礎的な対応と位置づけられます。

6-2. 投機的な動きを抑制するための調整

第二に、短期売買など投機的な動きが市場全体を過度に左右しないよう、緩やかな調整を検討する必要があります。これは投資そのものを否定するものではなく、市場の安定性や予見可能性を維持するための制度設計の問題です。

税制や取引条件によって短期的な過度の回転を抑える仕組みは、海外では一般的に用いられており、日本においても検討の余地がある論点といえます。

6-3. 重要地域取引と非居住者への対応

第三に、安全保障や公共性との関係が深い地域については、取引状況を把握し、必要に応じて管理を行う枠組みが求められます。また、日本での居住実態や納税実績を持たない非居住者による取得については、居住者との負担のバランスをどのように考えるかが政策的な検討課題となります。

取得時や保有時の負担調整、短期間での売却に対する課税強化などは、外国人を排除するための措置ではなく、居住者と非居住者の負担を調整する考え方として整理することが重要です。

これらの対応は、外国人投資を一律に否定するものではありません。市場の透明性と安定性を高めることで、健全な投資と国内の実需を両立させるための制度調整として位置づけられます。

重要なのは、

実態把握 → 投機抑制 → 重要地管理

という段階的な整理を通じて、市場の予見可能性を高めていくことです。

 

7. まとめと今後の展望

7-1. 市場変化の整理

日本の不動産市場では、外国人取得の拡大とともに、取得主体の重心が台湾へと移る構造変化が進んでいます。その背景には、地政学的要因、海外住宅市場の動向、為替環境などが重なっています。

一方で、日本側には所有者情報の把握不足、短期売買への対応の遅れ、戦略的な土地管理の弱さといった課題が残されており、市場の健全性や安全保障に影響が及びつつあります。

7-2. 今後の見通し

台湾による取得は、現状の環境が大きく変わらない限り、当面は高水準で推移する可能性があります。中国についても、状況次第では再び動きが出る余地があり、外国人投資の構成は今後も固定的ではありません。

日本の不動産市場は、すでに国際資本の動きと切り離せない段階に入っています。

問われているのは、その変化を事後的に受け止め続ける市場にとどまるのか、それとも実態を把握し、予見可能性を持った市場として再設計していくのかという点です。

7-3. おわりに

日本の不動産は、単なる金融商品ではなく、国民生活を支える基盤であり、国家の領土そのものです。市場の開放性を保ちつつ、安全保障や公共性とのバランスをどのように取るのかが、いま問われています。

制度整備が遅れたままでは、日本の不動産がなし崩し的に海外資本へ流れ続けるリスクは避けられません。特に、居住実態のない投資家への対応は国際的にも一般的な論点であり、日本でも検討を急ぐ必要があります。

他方で、所有者情報の透明化や重要地域の管理を進めれば、日本の不動産市場はより健全で予見性の高いものへと転換できます。国際資金の利点を生かしながら、国民生活と安全保障を守る枠組みづくりが、これからの日本に求められています。

 

【参考文献】
■牧野知弘 × 柯隆 対談(楽待 YouTube)
■nippon.com、日経、読売、Bloomberg の各報道
■第一生命経済研究所、全日本不動産協会、JLL の分析資料
■三菱UFJ信託銀行 不動産コンサルティング部
「不動産マーケットリサーチレポート VOL.288」(2025)

 

萩原大巳

萩原 大巳 (Hiromi Hagiwara)

一般社団法人RCAA協会 理事
【協会会員】株式会社スリーエー・コーポレーション 代表取締役CEO

  • ワークプレイスストラテジスト
  • ファシリティプロジェクトマネージャー

オフィス移転アドバイザーとしての実績は、600社を超える。原状回復・B工事の問題点を日経セミナーで講演をする。日々、オフィス・店舗統廃合の相談を受けている。オフィス移転業界では、「ミスター原状回復」と呼ばれている。