コンビニの覇者セブンイレブン「ビジネスモデル崩壊の危機」

2024.12.21

コンビニの覇者セブンイレブン「ビジネスモデル崩壊の危機」

はじめに

日銀短観が12月に発表されました。大手製造業、非製造業をあわせた景気全般は微成長でした。製造業は二四半期ぶりにプラス、非製造業はマイナス、特に小売業は-15、宿泊業は-12、飲食業は-11となりました。

これは個人消費(内需)が弱いことを表しています。

小売業界の覇者セブンイレブンも内需低迷を受けて営業利益が48%減少し、ひときわ目を引きました。しかし、ローソンやファミリーマートは地域のコンビニを買収して売上・利益ともに伸ばしています。

業界関係者は「セブンイレブンの一人負けはこれからが本番」と述べています。

 

激動の小売業界80万店舗「再編の歴史」とは

小売流通の三傑はイトーヨーカドー(セブンイレブン)、安売王ダイエー(ローソン)、西武セゾン(ファミリーマート)です。

1974年大規模店舗小売法により中小の商店を守ることを目的に法制化されました。この法律の隙間を掻い潜る形でコンビニのビジネスモデルが開発されました。

爆発的な人口増加と高度成長により、潤沢な資金を保有する三傑が勝ち誇った時代でした。

北米を席巻した「フランチャイズ」を日本版にアレンジして誕生したのが「セブンイレブン イイ気分」です。業界のパイオニア鈴木敏文氏は、伊藤忠商事の瀬島龍三氏の仲介を受け、セブンイレブンサウスランド社と度重なる交渉を経て、ロイヤリティ0.6%の破格の契約を締結しました。

フランチャイジー1号店を豊洲にオープンし、直営店1号店は店舗面積も駐車場も二倍もある相生店をオープンしました。そのテストショップのデータからセブンイレブンのビジネスモデルを磨き上げました。なんと豊洲店と相生店の売上はほとんど同じでした。

主力客層は圧倒的に独身のサラリーマンや若者であり、定価販売や1人~2人用パックの食品がスーパーマーケットでは扱っていない商品です。ビール、酒、タバコ、食品が好評でした。

 

 

セブンイレブンの成長を支えた戦略

鈴木敏文氏は、このデータをもとに売上不振に喘ぐ酒屋やタバコ店、食品雑貨屋を徹底的にローラー方式でフランチャイズシステムを広めていきました。

お母さんの手作り「おにぎり」、リーズナブルなドリップコーヒー、ATM、肉まん、あんまん、すぐ出てくる揚げ物など。すべて地道に「ジックリ、ネチネチ」試行錯誤を重ねて「セブンイレブン イイ気分」を磨き上げました。

結果として、圧倒的なNo.1コンビニの代名詞「セブンイレブン」が誕生しました。

 

コンビニ日販と店舗数

 

現在、東京の人口は1、400万人。50年間で500万人増加しました。単独世帯数は約4割です。この急成長を支えた両輪が、日本デリカフーズ協同組合(マーケティング&商品開発)とドミナント戦略です。徹底して立地、商品力、コストにこだわり、儲かるビジネスモデルを磨き上げました。『神は細部に宿る』、まさに地道にコツコツ、ネチネチと実践した成果でした。

 

※ドミナント戦略とは、特定の地域内に集中して店舗を出店し、地域密着型の事業展開を行うことで、効率的かつ効果的な事業運営を目指す戦略です。コンビニ業界や外食産業、小売業で広く採用されている戦略の一つです。

 

我世の春に翳り、オムニチャネル戦略の行方

デジタル革命の天才であるAmazonのベゾス氏が推進するデジタル流通革命は、瞬く間に世界を席巻しました。次に打ち出された戦略が「オムニチャネル戦略」です。これはデジタルもリアルも宅配も「なんでもやるぞ」という全方位戦略です。

データベースに入力する情報は有り余るほどあります。日々のPOSデータ、ナナコカードの使用状況、店内カメラの情報、さらに天候、温度、湿度まで組み合わせることで、その日その日の人気商品や購買傾向まで予測できます

しかし、デジタルシフトはあまりうまくいっていません。その原因は、売上・利益とも9割を叩き出すフランチャイジーオーナーのやる気とデジタルシフトに対する情熱の問題があると著者は考えます。

フランチャイジーオーナーも年齢を重ね、人間は60歳を過ぎると老化し、思考も保守的になります。二代目オーナーたちはゆとり教育を受けた高学歴の子供たちです。小売の常道は顧客の顔を覚え、購買傾向が頭にインプットされていることです。

残念ですが、商売の骨幹を鍛えられていません。地方に行けばなおさらです。

店舗経営は人づくりです。人づくりが店舗経営です。経営者の背中をみてアルバイトの人たちも育っていきます。外国人の留学生アルバイトが「ありがとうございます」の言葉と頭を下げる接客態度も経営者の背中を見て育っていきます。

 

スーパーでスマホ決済を使う若い女性

 

セブンイレブンのビジネスモデル崩壊の危機

業界大手ローソンは三菱商事が筆頭株主で、ファミリーマートは伊藤忠商事です。川上から川下まですべてを押さえ、その上情報、デジタル、ファイナンスにも強い総合商社です。世界に打って出る準備は整っています。

しかしセブンイレブン、ローソン、ファミマも外から見ていると人財育成の仕組みが弱い気がします。すでに世界では学生のアルバイトがSNSを活用して「お店の強みいち押し」を紹介しています。特にヨーロッパはスローフードの飲食個人店がSNS活用で成功しています。磨き上げたコンビニビジネスモデルをバイトさんがSNSで紹介しているのを見たことがありません。これはお店に愛着のない証です。

今、セブン&アイ・ホールディングスは創業家や伊藤忠商事、メインサブ銀行がすべてまとまり、MBO(経営陣買収)の提案を受けています。MBO価格は9兆円、カナダの大手コンビニストア「アリマンタシォン・クッシュタール」からも買収提案を受けています。大赤字の親会社のイトーヨーカドーを切り離すだけで株価は大幅に上がります。伊藤忠商事が絡んでいますので、ファミリーマートとの規模拡大は見据えています。

ローソンは三菱商事主導でKDDIメインバンクを巻き込み、⚫︎⚫︎銀行、⚫︎⚫︎証券、⚫︎⚫︎クレジット、⚫︎⚫︎カード、⚫︎⚫︎モバイルまで視野に入れて、新たなリアルネット経済圏構築を目論んでいます。

私の個人的所見ですが、コンビニビジネスの最大のリスクは、強みである「フランチャイズ契約」にあると思います。システムチックに囲い込み利益の5割はロイヤリティとして持っていかれます。その上、廃棄ロスもパート募集の経費もフランチャイズオーナー負担です。7時から11時の営業時間は24時間になり、その上人手不足でパートさんは集まらず、年老いたオーナーがなんとか回しています。「もう、やってられねぇ」の悲鳴が聞こえてきます。

オーナーとセブン&アイ・ホールディングスの訴訟が増えています。北米の民事訴訟でしたら、陪審員の感情に訴えセブン&アイ・ホールディングスが負ける確率は高いと思います。裁判になる…それ自体やる気もビジネスに対する愛着もありません。これは最大のリスクです。セブンイレブンビジネスモデル崩壊の危機です。

 

セブンイレブンの苦境と再生~挑戦と未来への展望~

かつてコンビニ業界を牽引していたセブンイレブンは、近年その地位を揺るがされています。2024年6~8月期の業績では、大手3社の中で唯一“独り負け”状態となり、業界内外に衝撃が広がりました。その原因として「弁当容器の上げ底」や「商品の値段の高さ」などが挙げられますが、それだけでは説明できません。

最大の要因は、時代の変化に対応しきれていない経営戦略にあります。かつて圧倒的な商品開発力と店舗運営力で業界を席巻していたセブンイレブンですが、最近では競合他社の成功を模倣する姿勢が目立っています。例えば、ファミリーマートやローソンが実施する商品増量キャンペーンに後追いで参加するなど、独自性を欠いた戦略が顧客離れを招いています。また、SNS上で話題となった「弁当容器の上げ底」問題は、ブランドイメージに深刻なダメージを与えました。

 

これに加えて、既存店の売上も前年を下回るなど、セブンイレブンの回復は遅れています。このような状況は、過去の成功体験に依存しすぎた結果といえるでしょう。

セブンイレブンが現在の苦境に立たされるきっかけとなったのは、2015年に導入された戦略です。この戦略は、リアル店舗とネット通販を融合させ、顧客にシームレスな買い物体験を提供することを目指しました。しかし、楽天やAmazonといった競合の台頭により、グループ内サービスだけで顧客満足を実現するのは困難でした。

さらに、自社開発のQRコード決済「7Pay」の導入も失敗に終わりました。不正アクセスやセキュリティの脆弱性により、顧客情報が流出し、サービス開始からわずか3カ月で終了する事態に陥りました。これにより、消費者や取引先の信頼を失う結果となりました。

また、ネットスーパー事業においても、システム設計の使いにくさが課題となり、サービスの普及を妨げました。これらの戦略的な失敗は、セブンイレブンが変化する市場環境や消費者ニーズに適応できていないことを象徴しています。その影響は現在も続いており、事業効率化に向けた改革が急務とされています。

厳しい状況の中でも、セブンイレブンには明るい兆しが見え始めています。その象徴ともいえるのが、ヒット商品を通じた成果です。店内調理による「揚げたてカレーパン」は年間7700万個を売り上げ、ギネス記録にも登録されるなど、高い評価を受けています。この成功は、単に商品力が優れているだけではなく、従来の強みである迅速な商品開発力と、店舗運営の工夫が活かされた結果です。こうした成功事例は、セブンイレブンが抱える課題を克服するための指針ともなり得ます。

 

さらに、近年注目を集めている健康志向の高まりを受けたスムージー商品の展開も見逃せません。これらの健康志向商品は、若い世代やヘルスコンシャスな層を取り込む重要な役割を果たしています。こうした取り組みを通じて、セブンイレブンは新たな顧客層の開拓を進めており、消費者ニーズの変化に対応する柔軟性を示しています。

一方で、既存店舗の運営データも希望の光を示しています。1店舗あたりの平均日販は約70万円と、競合他社を大きく上回る水準を維持しています。このデータは、セブンイレブンが依然として強力な顧客基盤を持ち、日本国内で圧倒的な支持を受けていることを証明しています。SNS上では一部批判的な声もありますが、多くの消費者にとってセブンイレブンは、日常生活に欠かせない存在となっています。

 

フランチャイズオーナーとの関係強化

 

再生のためには、さらなる改革が必要です。その鍵を握るのがフランチャイズオーナーとの関係強化です。国内店舗の98%を占めるフランチャイズ店舗は、セブンイレブンの収益の柱であり続けています。しかし、現状では一部オーナーから不満の声が上がっており、運営コストや利益配分に関する透明性を高める必要があります。これを解消するためには、本部とオーナーが協力し、ウィンウィンの関係を築く施策を実行することが不可欠です。

また、収益の再投資を通じて事業基盤を強化し、国内外での競争力を高めることが重要です。特に海外市場では、不採算店舗の整理と、新規出店地域における消費者ニーズの徹底的な分析が求められています。日本国内のような効率的な店舗運営モデルを国際市場でも適用し、グローバルな展開を進めることが、セブンイレブンの持続的な成長につながるでしょう。

さらに、セブンイレブンが担う社会的役割にも注目すべきです。同社は災害時の物資供給や地域コミュニティの支援を通じて、生活インフラの一部として機能しています。この強みをさらに拡充することで、消費者からの信頼をさらに強固なものにすることが期待されます。

 

これらの要素を総合的に活かし、セブンイレブンは単なる店舗運営を超えた新たな価値を創造していくことが求められます。課題が山積する中でも、従来の成功体験に固執することなく、変化を恐れない姿勢が未来を切り拓く鍵となるでしょう。このような挑戦を通じて、再び業界をリードする存在へと回帰する可能性は十分にあると言えます。

セブンイレブンが抱える課題は多岐にわたりますが、その一方で再生に向けた希望も確かに存在します。独自の商品開発力や顧客基盤を活かし、新しい挑戦を通じて再び業界を牽引する存在になることが期待されます。その道のりは容易ではありませんが、変化を恐れない姿勢こそが、セブンイレブンの未来を切り拓く鍵となるでしょう。

 

まとめ

アメリカで成功したビジネスが日本で成功するわけではありません。特に人と関わるビジネスでは、アメリカンスタイルは成功しておりません。スーパーマーケットの巨人ウォルマートも日本では失敗しました。

建設業においても施工は職人(技能工)がつくり上げるため、外資の全ての総合建設は日本から撤退しました。小売業も同じで、経営者の背中をみて同じ飯を食べ育っていきます。

世界を見据えると市場はいくらでも広がります。留学生も二年ぐらい日本にいると頭を垂れて「ありがとう」と言います。日本人に同化していきます。

25年前ドイツに行ったら、夜10時過ぎると店は全て閉まっています。週末はやっている店も3割程度です。ハッキリ言って不便です。ここに「コンビニがあったらいいな…」と思いました。

かたやハワイは、空港の名前からダニエル・K・イノウエ国際空港です。パスポートもVISAなしで、税関も日本人は特に厳しいチェックを受けることがあまりありません。レストランでも、すべて日本語訳が書かれています。

日本人と知ると、笑顔で「おはようございます」や「こんにちは」と言ってくれます。これは、日系の先人たちの信用の賜物です。ハワイの家庭では、どの家庭でもライスを炊く家電があります。

メニューには必ず芋で作ったスイーツやパンケーキなどがあり、人気です。少し調べたところ、明治中期に沖縄県の移民が持ち込んで農場やレストランを開業したことがわかりました。ハワイの治安は、アメリカの中では一番良いと言われています。私の息子は、「ハワイはミニ東京みたい」と言っていました。

今大人気のアニメもスタンフォード大学の学生がサークルイベントで日本アニメを紹介して、今や全米でアニメイベントは大人気です。日本人が広めたわけではありません。

留学生は日本文化発信の核となる人財です。

そろそろ世界的にグローバル金融資本主義の問題が顕になり政権が変わっています。次の時代は、人が主役の道徳国家が世界から尊敬される時代になりつつあります。ハワイは参考になる実例です。

 

最後に

セブンイレブンのブランドは日本人の誰もが知っています。国内だけで1億人以上にPB商品を提供しており、約2万人のフランチャイズオーナーと一緒に仕事をしています。

これは凄いビジネスです。

リアル店舗が全国津々浦々に存在し、日販70万円を売り上げます。

店舗という箱の中でどんなビジネスが展開できるのか?まだまだやれることはたくさんあります。

30年前には誰も予想しなかったATMでの現金引き出しや公共料金の支払いなどが、今では当たり前のサービスとなっています。またクリーニングや留守宅の宅配商品をお預かりして、お客様が取りに来店、そんなビジネスも展開できます。(未だやっていません)誰も想像すらできなかったことが現実になっています。これからは健康、薬、医療が伸びる産業です。

世界を見渡せば、different people, different cultureです。70億人にPB商品を通してビジネスを展開できる、素晴らしいビジネスです。

「お客様良し、オーナー良し、セブンイレブン本部良し、メーカー良し」四方良しのビジネスを実現してください。

2023年、2024年にフランチャイズオーナーさんから「閉店したい」との相談を受けました。
原因は、少子化による人手不足と24時間営業のハードワークです。契約書でシステムチックに囲い込むだけではなく、お互いがWin-Winになる柔軟性が必要です。所変われば品変わる、地域特性を活かしたサービスにアンテナを立ててください。

閉店の際には、原状回復義務や敷金(保証金返還)が契約書で義務付けられています。原状回復の適正査定・敷金返還まで無料相談を承ります。

また、ビジネス拡大の新店舗出店のご相談まで、ワンストップでサポートさせていただきます。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。
貴方の経営のヒントになれば嬉しいです。

店舗づくりは人づくり、ビジネスは「地道にコツコツネチネチ」と磨き上げてください。
貴店の成功を心より祈願いたします。

 

 

 

萩原大巳

萩原 大巳 (Hiromi Hagiwara)

一般社団法人RCAA協会 理事
【協会会員】株式会社スリーエー・コーポレーション 代表取締役CEO

  • ワークプレイスストラテジスト
  • ファシリティプロジェクトマネージャー

オフィス移転アドバイザーとしての実績は、600社を超える。原状回復・B工事の問題点を日経セミナーで講演をする。日々、オフィス・店舗統廃合の相談を受けている。オフィス移転業界では、「ミスター原状回復」と呼ばれている。